朝、目が覚めると、またもやシュラ様の枕を抱き締めていた。
いや、正確に言うと、抱き締めさせられていた。
勿論、ベッドの上に彼の姿はない。
昨日と同じく、私を起こさないようにベッドを降り、部屋を出て行ったのだろう。


「はぁ……。」


唇から零れたのは、大きな溜息だった。
結局、シュラ様は彼の宣言通り、私に手を出さずに一晩を過ごした。
あんな無防備な状態で、こんな下着だけの際どい姿で、しかも、一緒のベッドで抱き合って寝ていたにも係わらず、だ。
その精神力の強さに感嘆すると同時に、一方で落胆の気持ちも大きかった。


まさか人に耳掻きをしてもらうのが、あんなに気持ちの良いものだとは知らなかったから、だからこそ、昨夜はあのような無防備な姿をシュラ様の前に晒せたのだと思う。
そのまま彼と……、なんて淡い期待まで抱いてしまう程に、私はすっかりあの心地良さの虜になっていた。
次にまた耳掻きをしてもらうような場面が訪れるのかは分からないけれど、もしあったとしても、昨夜のようにはならないだろう。
一度、理解してしまったからには、どんなに無意識下にあっても、心は自然と身構えてしまうだろうから。


「シュラ様の馬鹿……。昨夜は折角のチャンスだったのに……。」


これでまた、暫くは機会に恵まれないだろう。
どんなに魅惑的に誘惑されても、私の心がシュラ様との情事を望んでも、身体はどうしても過去の傷を思い出し、竦んでしまうのだから。
あのように無防備で無気力な状態に陥る時など、そうそう巡っては来ない。


顔を上げると、ベッドの片隅にいた山羊のぬいぐるみと目が合い、思わず指でピンとその頭を弾いていた。
罪のない山羊ぐるみがポテッと横向きに倒れ、恨めしそうに私を見上げている。
そんな目で見ても、許して上げないんだから。
女心に疎いシュラ様が悪いのよ、あんな事があったのに、平気でスヤスヤと寝てしまうなんて。
暫くはお預けされて、シュンと落ち込んでいれば良いんだわ。


私は床に落ちていたバスタオル――、昨夜、シュラ様が腰に巻いていたと思われるタオルで身体を覆うと、急いで自分の部屋に戻った。
昨夜、浴び損ねたシャワーはとても心地良く、汗と汚れと、そして、今日も身体に移っていた彼からの移り香を、熱いお湯で洗い流す。
着替えを済ませ、普段よりも少しだけ濃い目にお化粧をすると、気合を入れるために自分の両頬を、両手でパチンと叩いてみせた。


急がないと、シュラ様が早朝トレーニングから戻ってきてしまう。
カラリと音を立てて開けた窓。
眺めた外の景色は重い雲に覆われ、雨は降っていないまでも、ドンヨリと陰鬱に曇っていた。





- 10/13 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -