「何だ? 何か他にも持って来てくれたのか?」
「あっ?!」


何と言うか……、その場の空気を読まない人、よね。
邪気のない顔をしたアイオリア様が、私達の背後から、紙袋の中身を覗き込んでくる。
勿論、歩美さんは吃驚した声を上げて、パッと勢い良く紙袋を閉じ、私も慌てて、開いた紙袋の上を両手で覆い隠した。
アイオリア様はこういう時は、とても鈍い。
空気を『読まない』と言うより、『読めない』と言った方が正しいだろう。


「ば、バカッ! アイオリアッ! 察してよ!」
「あ、す、スマン……。」


袋の中が見えた訳ではないが、私達の反応を見て理解したのだろう。
バツの悪そうな顔をして僅かに顔を赤らめ、その金茶の髪を掻き毟る。
こういう純朴で純粋なところが、アイオリア様らしいと言えば、そうなのだろうけど……。


「あの、これ……。アイオリア様の分も作ってきましたから、良かったらお昼ご飯に食べてください。」
「俺の分もあるのか? いつもすまないな。」
「いえ、料理は大好きですから。美味しいと言ってくださる方に食べていただけたら、それだけで十分です。」


そう返しつつ、バスケットから取り出した二つの容器をテーブルに並べ置いた。
大きな容器に入っているのがアイオリア様の分で、小さい容器が歩美さんのだ。
それにサラダを詰め込んだ容器をもう一つ、テーブルに乗せると、私はヨロヨロともたつく足取りで部屋へと向かった歩美さんの後を追った。


「大丈夫ですか? 手、貸します?」
「あ、ごめんなさい。じゃあ、これだけ持ってて。」


彼女の手から紙袋を受け取ると、その背を支えるように部屋へと足を進める。
窓辺には、昨日はなかった見事な大輪の薔薇が、花瓶に活けて飾ってあった。
あんなに大きな薔薇、色も鮮やかで……。
アフロディーテ様がお見舞いにでも来たのだろうか。


「あの水色の髪をした綺麗な男の人の事? えぇ、来たわ。昨日の夕方、その薔薇を渡して、でも、直ぐに帰っていったけれど。」


では、お見舞いとは名ばかりの、様子見だったのだろう。
歩美さんの怪我の具合と、そして、アイオリア様との関係がどうなったのか、ちょっとだけ様子を見に来たんだわ。
で、結局は、その時から暗雲垂れ込める悪い雰囲気だったのだろう、二人の間は。
それで、アフロディーテ様は自宮に戻る途中、巨蟹宮に寄り、デスマスク様に注意を怠るなと告げたのかもしれない。
だから、先程、この宮の様子見に来たデスマスク様が二人の喧嘩に巻き込まれ(たかどうかは分からないけれど)、あんなに不機嫌になってしまったと、そういう事に違いない。


受け取った紙袋から取り出した衣類や下着の確認をする彼女を、視界の片隅に捉えながら、私は小さく溜息を吐いた。
これから先は、正直、面倒事しか起こらないだろう、そんな予感がしていた。





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