ふと、言い争いを続ける二人の足元に視線が向いた。
そこには粉々に砕けた白い……、あれはお皿の欠片だろうか。
やっぱり、危惧していた通りの事が起こっているようだ。
仕方ない、ここは私が止めに入らないと……。


スッと視線を上げると、未だギャーギャーと言い合いを続ける二人を交互に眺めて。
それから、大きく息を吸って、一旦、ピタリと止めた。


「こ、ん、に、ち、はっ!!」
「ひゃっ?!」
「うぉっ?! あ、アンヌ、か?」


息を吐くと同時に、大きな大きな声で挨拶をする。
流石に、その声には気が付いたと言うか、驚かされたようで。
二人同時に飛び上がって、こちらを振り返った。
私を見る目が、二人共に驚きで真ん丸に見開かれていて、ちょっとだけ面白いと思ってしまう。


「どうしたんですか、これ? お皿、割れちゃってますね。」
「そ、それは、コイツが……。」
「コイツじゃないわ、歩美よ、歩美!」
「食べ物を粗末にするようなヤツを、名前で呼ぶ気はない。」
「な、何よっ!」
「まぁまぁ二人共、落ち着いてください。」


私を間に挟んで、またも言い争いの第二ラウンドを始めそうな二人を宥め、私は床に散乱したお皿の欠片を幾つか拾い上げた。
私のその行為を見て、居たたまれなくなったのか、言葉を喉に詰まらせた二人は、渋々、自分達も屈んで、残りの欠片を拾い始める。
だが、私は歩美さんの手を、自分の手で遮って、拾うのを止めさせた。
ただでさえ怪我で足が不自由だというのに、これ以上、傷が増えたら大変だもの。


「こんな事だろうと思って、持ってきたものがあるんです。」
「持ってきたもの?」
「はい。」


床に飛散していたお皿の欠片を片付け終えたアイオリア様が戻ってくると、私は持ってきていたバスケットの中身を、テーブルの上に広げた。
早めに用意して作ってきたランチセット。
勿論、それはアイオリア様と、歩美さんの分。


「これ……、イタリアン?」
「はい。日本の方はイタリアンがお好きと聞いてましたから。」
「えぇ、好きです。美味しそう、とても良い匂い。でも、どうして?」
「ギリシャ料理って、初めてで慣れないと、ちょっとお辛いかと思いまして。」


そう、日本の人は、あまりギリシャ料理に馴染みがないと聞いた事がある。
だから、きっと戸惑っているか、食が進まなくて困っているか、そんなところだろうと思って、こうして食事を運んできた。
それは、まさに大正解だったようだ。


「嬉しい。有難う御座います。えっと……、アンヌさん?」
「いえ、お気になさらず。あと、これは頼まれていた……。」


言い掛けて、だが、その後の言葉は濁し、手にしていた紙袋を彼女に差し出した。
中身は昨日、市場で購入した下着類など。
アイオリア様の前では、それが何であるのかは大きな声で言えないので、彼女だけに中身が見えるように開いて渡す。
すると、歩美さんはハッとして中を覗き込んだ後、紙袋を受け取りつつ、ニッコリと私に微笑み掛けた。
その微笑みは、先程までの大喧嘩が嘘のように明るかった。





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