朝食を終えて、シュラ様を執務に送り出すと、私は急ぎでいつもの家事仕事を開始した。
毎日、しっかりきっちりお掃除しているのだから、今日くらいは多少の手抜きをしても良いだろう。
元々、この宮内の、ありとあらゆるお部屋がゴミ溜めだった事を思えば、ちょっと汚れが残っている程度でも百倍はマシ。
一日くらいは目を瞑ってくださいねと、心の中でシュラ様にお詫びをしながら、私は慌てて後片付けとお掃除、そして、お洗濯を終わらせた。


そうしてたっぷりと出来た自由な時間を使って、私は昼食の準備を始めた。
お昼には、まだまだ時間があるけれど、それには訳がある。
普段はシュラ様と私の二人分しか作らない料理を、今日はたっぷりと四人前は作って、その内の半分はキッチンや冷蔵庫の中に仕舞い込む。
残りの半分は容器の中へ綺麗に詰めて、大きなバスケットへ入れた。


私は身支度を整えると、昨日、市場で買ったものを詰め込んだ紙袋と、暖かな食事の入ったバスケットを抱え、外へと向かった。
一歩、宮から足を踏み出すと、霞のように視界を遮る霧雨が、頬にヒヤリと触れる。
多少の外出ならば問題ない程度の雨だろうけれど、獅子宮まで下りていくとなれば濡れてしまうに違いない。
私はお気に入りの大きな水色の傘を開き、足元に気を付けて、階段を下り始めた。


と、遥か下方、靄が広がる中に、薄っすらと人影らしきものが揺らめいて見えた。
誰かが階段を上ってきているのだろうか?
目を凝らしても、濃い霧雨に阻まれて、なかなか確認出来ない。
仕方なく、そちらの方をジッと見ながら階段を下り続けると、それは直ぐに見慣れた人の姿に変わった。


「あ……、デスマスク様。おはようございます。」


傘も差さずにブラリブラリと階段を上ってくる姿は、まるで散歩でもしているみたいだけど、実際には、そうではないのだろう。
これから、執務に向かうのか、それとも、別の用事なのか。
いずれにしても、この霧雨でご自慢の銀髪は勿論、全身がしっとりと濡れてしまっていては、仕事にならないのではないのかしら?


「おう、アンヌか。珍しいな、こンな時間に外にいるなンて。」
「今日は幸い雨ですから。それより、デスマスク様こそ珍しいですね。どうして今朝は磨羯宮にいらっしゃらなかったのですか?」
「あぁ、ちょっとな……。」


雨でしんなりと垂れ下がった髪を掻き毟り、何事か言いた気なデスマスク様。
だが、彼が何を言いたいのか、私にはまるで推測が付かず、ただ首を傾げて言葉の続きを待つしかない。


「まぁ、アレだ。一つ上の宮が、あンな状況だからな。のんびりとコーヒーなんざ飲んでられねぇだろ。」
「あ、そうですよね。」


巨蟹宮の一つ上の宮、つまりは獅子宮の事が気になると。
何だかんだ言って、心配だったのだろう、アイオリア様と歩美さんの事が。
口も態度も悪いけれど、こう見えてデスマスク様は面倒見が良いのだ。


「獅子宮に寄って来たのですか?」
「まぁな……。」


そう言って、まだ何かを言い渋るデスマスク様。
言い難そうに、チッと舌を鳴らし、そして、もう一度、髪を掻き毟った後、彼は物凄く大きな溜息を吐いた。





- 4/13 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -