それから後の事は、言ってしまえば完全にアイオロス様のペースだった。
私はアワアワしながら、彼の命令に従う、それだけで精一杯。


まずは、グッスリと眠っている彼女を起こす事から始まった。
しかも、それは「自分が彼女に触る事で、変な誤解を受けたら、説得に支障をきたしかねない。」という理由で、全て私に任された。
というよりは、押し付けられたという方が正解だろう。
私は、その身体を傷に障らない程度に揺さ振ったり、擽ったりして、なかなか目を覚まさない彼女を、どうにか目覚めさせた。
まさか巨蟹宮に勤めていた頃に、寝起きの恐ろしく悪いデスマスク様を毎朝、苦労して叩き起こしていた経験が、こんなところで役に立つとは思わなかったけれど。


そして、彼女が目覚めると同時に、私のお役も一旦、御免になる。
アイオロス様の目配せで、彼女に気付かれぬよう、そっと部屋から退出した後は、ただボーッと獅子宮のリビングで待機していた。
私の出番は、アイオロス様が彼女を説得し終えた後だ。
それまでは、大人しくココで待っていなければいけない。


でも、正直言って、何もしないでいるというのは、どうにも性に合わないと言うか……。
数分、座っていただけで、直ぐにも落ち着いて待っているのが難しくなる。
やはり私は根っからの女官気質なのだろう。
気が付いたら、テーブルの上に乗っていた雑誌やリモコンなどを手に取り、隅に寄せていた。
綺麗に整頓して並べられたそれらを見て、思わす自分でも苦笑してしまう。


だが、男臭くて散らかっていそうだと勝手にイメージしていた獅子宮は、思いの外、綺麗に片付けられていて。
汗の匂いどころか、埃っぽさすら一切なく。
薄っすらと爽やかな柑橘系の香りさえ漂っている。
そうか、アイオリア様の従者さんは、男の人だけれど、とても働き者で気が利く人だと聞いている。
人前には、あまり姿を見せないその従者さんが、アイオリア様の生活を支えているのだもの。
部屋が汚れているなんて事、有り得ないんだわ。


そう思うと、以前のシュラ様は、本当に人間とは思えない生活をしていたんだと改めて気付かされた。
まさか、この神聖な十二宮の中に、あのようなゴミ溜め部屋があったなんて。
アテナ様が知ったら、きっと絶句ものだろう。


私がシュラ様の宮で働けるようになって良かった。
そして、今は恋人として傍に居れるようになって良かった。
人間らしい食生活、人間らしい居住環境。
私がいなくなったら、きっとまた元の『アレ』なシュラ様に戻ってしまう。
私がいないとマトモな生活一つ送れない、駄目な人なんだわ。
そう思うと、ますますシュラ様の事を愛おしく感じてくる自分がいた。





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