4.招かれざる者



「さて、と……。」


三人が扉の向こう側へと消えてから、アイオロス様は暫く黙ったまま身動ぎもせずに突っ立っていた。
が、それも僅かの事。
数分もしない内に、いつもの快活なアイオロス様が、にこやかな笑顔を浮かべて私の方を振り返った。


「大丈夫。アイツ等は、ちゃんと教皇宮へと向かったみたいだ。」
「え……?」


そうか、今、何もせずに黙っていたのは、小宇宙でシュラ様達の様子を探っていたんだわ。
間違いなく十二宮の階段を上っている事を確認して、漸く行動を開始出来ると判断した。
その場その場で思うままに動いているように見えて、実は慎重に物事を見極めている。
そして、それを表に出さず、他人に気取られないように『自然』を装って行動する。
それがアイオロス様なのだと、この時、私は気が付いた。


「それじゃあ、アンヌ。彼女を起こしに行こうか。」
「えっ?! 目が覚めるのを待ってからではないのですか?」
「それだと日が暮れてしまう。彼女には悪いが、ここは俺のペースでいかせてもらう。」


ココで下手に出て、相手のペースに飲まれたら、説得なんて夢のまた夢。
つまりは、物の初めから、全てこちらのペースに巻き込み、相手が戸惑って訳が分からなくなっている内に、無理矢理にでも納得させ、了承させる、そういうつもりなんだろう。
アイオロス様らしいと言えば、アイオロス様らしい。
だけど……。


「それで良いのですか?」
「ん、どうしてだい?」
「確かに、今は、それで彼女を説得出来るかもしれません。でも、彼女が冷静になった後に良く考えれば、納得出来なくなってくるんじゃないんですか?」


そうなれば、また一からのスタートだ。
彼女は「やはり日本に帰りたい。」と言い出すかもしれないし、ココから逃げ出そうとするかもしれない。


「それは、そうなった時に、また対処法を考えれば良いさ。当面の問題は、今、彼女を説得して、彼女の意思で聖域に留まってもらう事だ。運の良い事に、彼女には親類・縁者もいないようだし、日本政府さえ納得させれば、後は何とでもなる。」
「政府との遣り取りを穏便に済ます事が、第一だという事ですか?」
「そうなるね。」


聖域の事を、アテナ様の事を考えての結論だろう。
でも、幾ら教皇補佐のアイオロス様であるとはいえ、遣り方が少し強引過ぎる気もする。


「それにね、アンヌ。彼女が疑問に思う頃には、アイオリアが何とかしてくれるだろうと、俺は思うんだ。」
「アイオリア様が……、ですか?」
「言葉では上手く言えないんだが……。何か理屈を捏ねて行動するっていうのじゃなくて……、こう自然なリアが、自然な形で彼女に接する内に、彼女も何事かを感じ取って、分かってくれるんじゃないかって。うん、やっぱり上手く表現出来ないけど、俺はそんな気がする。」
「は、はぁ……。」


確かに、アイオロス様が何を言いたいのか、良く分からない。
でも、実直で、ちょっと短気なアイオリア様の、心の内側に潜んだ優しさと思い遣りの心があれば、きっと彼女の気持ちも動くのではないか。
アイオロス様が言いたい事が、そういう意味ならば、私も同感だと思った。





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