彼女が目覚めたら、聖域に定住しなければいけないと納得させる。
そして、それが彼女自身の意思である事を宣言して欲しいと、説得する。
そうしなれば、日本政府は納得しない。
本人の意思を無視して聖域定住を強要したとなれば、どんな対抗措置を取ってくるか分からないのだ。


勿論、『アテナ様=グラード財団の総帥・城戸沙織嬢』だとは、世間には知られていない。
それでも、アテナ様の立場を思えば、この説得に失敗は許されないのだ。
だとすれば、やはりココはアイオロス様が適任なのだろう。
他の三人も渋々ではあるが、それに納得した模様で、彼にその任を譲った。
ただし、その顔は、変わらず三人共に仏頂面ではあるのだけれども。
といっても、シュラ様は常に、あの無表情なのだから、不機嫌なのか、そうではないのか、その違いが良く分からなかった。


そして、一方のアイオロス様。
その肩には相当の重荷が掛かっているというのに、彼の表情には余裕すら感じられる。
まるで、これから散歩にでも行くかのように、軽く口元に笑みを浮かべ、肩をグルグル回してたりする余裕っぷり。
やはり、この方は複雑怪奇で規格外だわ。
その行動も、その考えも、まるで読めないのですもの。


「ほら、リア。早く報告に行った、行った。」
「あ、あぁ……。」


その笑顔のままにアイオリア様の背を押し、入口の扉の方へと押し遣る。
流石に兄には逆らえないのだろう、アイオリア様もズルズルと押されるがままに歩を進め、扉へと手を掛けた。
と、同時に、今度は残りの二人の方へと視線を向けたアイオロス様。


「デスマスクとシュラも、もう直ぐ執務の時間じゃないのか? こんなトコで油を売っている暇はないだろう。」
「う……。」
「む……。」


まるで厄介払いしているみたいだわ。
もしかして、この人は、この件に関しては、全てを自分で背負い込むつもりでいるのかしら?
そんな気さえしてくる。
ならば、私もシュラ様と一緒に、磨羯宮へ戻るべきよね。


「あぁ、アンヌはもう少し、残っていてくれないか。」
「え……?」
「ほら、彼女が目覚めたら、俺とリアの従者だけでは心許無いだろ。女性の手が必要不可欠だし。」
「は、はぁ……。でしたら、お話が終わるまでは、このお部屋で待機しています。」
「そうしてくれると助かるよ。」
「しかし、アイオロス。そうなれば、アンヌが磨羯宮に帰れなくなる。」


シュラ様には珍しく、幾分、慌てた様子で私達の遣り取りに口を挟んできた。
その瞳も真剣というか、多分に鋭さを含んで、アイオロス様を睨み付けるかのよう。
身を前に乗り出したシュラ様は、「アンヌは日光が苦手で倒れる心配がある。」と、このまま自分が連れて帰る事を強く主張した。
勿論、私の身体の心配もあるけれど、きっと、自分のあずかり知らぬところに私が置き去りになる事が嫌なのだわ。
そう思うと、彼に愛されているのだという事が強く感じられて、頬がじんわりと熱くなる気がした。





- 12/13 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -