「オマエの言う通り、女が一人で生きていくのは辛いだろう、大変だろう。だがな、ココに来たからって、それが良くなるとでも思ったのか?! バカか、オマエは?!」
「…………。」
「彼女は一生ココから出られねぇ。更には、特別扱いを受ける事で、周囲の連中からは謗られ非難されるだろう。時には目に見える嫌がらせを受けるかもしれねぇ。それがどれだけの辛さなのか、テメェが一番、身に沁みて分かってンじゃねぇのか? あ?」


そうだ。
戦争で傷付き、家族を失った人など、それこそ世界中には数え切れない程。
なのに、彼女一人が特別に聖域へと迎え入れられ、一生の生活を保障されるなど、本来ならば許される事ではない。
外部からの人の受け入れがタブーとなっているのは、そういう理由もあるのだ。
聖闘士であるなら兎も角、一般人の『特別』を許してはいけない。
そして、大昔から連綿と続く、そのタブーが破られた場合、その対象は多く非難の的となる。
聖戦までの十三年間、アイオリア様が受けていた誹謗中傷に比べれば大した事ではないのかもしれないが、それでも、か弱い女性が、たった一人で、その身に受けるとなれば……。


「そんな中傷など、俺が許さん。」
「ならば、お前はずっと生きて、彼女を守るつもりか? 俺達は聖闘士である以上、長くは生きられん。もし、一年後にお前が死んでしまったとして、その後は誰が彼女を守る?」


シュラ様の言葉に、ハッと大きく息を呑む音が響いた。
それから、アイオリア様の険しい顔が一瞬だけ、緩む。
だが、それも直ぐに元の厳しい表情に戻った。


多分、彼の頭の中を一瞬だけ、兄であるアイオロス様の姿が過(ヨ)ぎったのだろう。
でも、アイオロス様は教皇補佐という地位にある。
そして、誰よりも平等である事をモットーとするアイオロス様は、幾ら自分の弟の頼みといっても、彼女を庇護する立場になる事を良しとしないだろう。
幼き頃、アイオリア様だけに目を掛けるような事は、決してしなかったように。


「オマエは死ぬ事は許されねぇ。そして、彼女を一生、守り続ける。出来ンのか、そンな事が?」
「…………。」
「戦場で山となった死体や、溢れんばかりの怪我人を目にする事は、それこそ数え切れない。その都度、その全ての人に同情する訳ではないだろう? いや、同情はしても良い。助けられなかった己の非力さを悔やみ、更なる力への源とすれば良いのだ。黄金聖闘士といえど限界はある。全ての人を救える力が俺達にあるのなら、とっくに戦争などなくなっているだろう。出来ないからこその、今のこの現状だ。分かるか、アイオリア? 戦場で、一人一人に対して情けを掛けるのは禁物だ。俺達には……、何も出来ん。」


デスマスク様とシュラ様からの叱責が、アイオリア様の胸に重く圧し掛かっているようだった。
ただでさえ、頭の上がらない先輩二人。
その上、私の目から見ても、アイオリア様の行動が正しかったとは思えない。
でも、だからといって、これはあまりにも……。





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