私は紙袋の中に、新品の洋服や下着を詰め込んで、部屋を出た。
デスマスク様に「用意して持ってこい。」と言われたのだ。
果たして、これがその女性のサイズに合うかは分からないけれど、取り急ぎ、間に合わせなのだから仕方ない。
ちゃんとしたものは、後で相手のサイズを聞いてから、用意すれば良いだけの事。
それに今は、モタモタしている時間はないのだし。


「準備出来たか?」
「はい。」
「ならば――。」


そう言って、シュラ様が私の方へと両手を差し出す。
それは、どういう意味?
差し出された手の意味を分かりかねて首を傾げていると、少々手荒に手首を掴まれ、グイッと彼の方へと引き寄せられた。


「ノンビリしている間はないからな。走っていく。しっかり掴まっていろ。」
「あ、は、はい……。」


そうか、あの手は「抱き上げるから、こっちへ来い。」との意味だったのね。
正直、お付き合いする事になったとはいえ、シュラ様との密着は、まだ恥ずかしいと思う気持ちが強い。
でも、確かにノンビリしている場合ではない。
私を横抱きにしたシュラ様の、その逞しい首にオズオズと手を回すと、恥ずかしさを振り切って、しっかりとしがみ付いた。


――ヒュンッ!


一瞬の激しい疾風。
そして、次の瞬間には、獅子宮の前にいた。
この人知を越えたスピードでの移動は初めてではないにしても、やはり圧倒される。
こんな速さで走れるのだもの、シュラ様が毎日、ランチの時間に自宮に戻ってくるのも厭わない訳だと、このような緊急時だというのに、私はそんな事を考え、納得をしていた。


「よう、やっと来たな。」
「デスマスク、それと……。」


獅子宮のプライベートルーム。
そのリビングに入って、最初に目に映ったのは、呆れ顔をしてソファーにドッカリと座ったデスマスク様の姿だった。
それから、少し離れて椅子に座るアイオリア様。
項垂れて、シュラ様の声に一瞬だけ顔を上げたものの、直ぐにまた床に視線を落とす。
夏の朝、部屋の中には燦々と爽やかな光が満ちているのに、この場所の雰囲気は酷く陰鬱だった。


「で、様子は?」
「コイツが連れてきた女なら、ソッチの部屋にいる。」


粗方、怪我の処置は終えて、今はグッスリと眠っているそうだ。
シュラ様の無言の視線を受け、私は一つ小さく頷くと、その部屋へと入っていった。
私一人に行かせたのは、多分、その人が女性だからという配慮だろう。
あれだけ大雑把な性格をしていながら、シュラ様は、こういった配慮を忘れない。


そこは私が磨羯宮で使わせてもらっている部屋と同じような、小さな部屋だった。
ベッドの上で軽く寝息を立てている女性。
黒い髪、彫りの薄い顔、瞼が閉じられているから瞳の色は分からないが、間違いなく東洋の人だ。
パッと見、顔や肌など目に見える部分に外傷はない。
だが、左足は固定されていて、骨折のような大きな怪我をしているだろう事だけは分かった。





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