「傷は俺が小宇宙でヒーリングした。女だからな、流石に痣が残っちまうのは可哀想だろ。」


リビングに戻ると、私の言いたい事を察したのだろうデスマスク様が、私が口を開く前に話し始めた。
それに対し、シュラ様は軽く片眉を上げただけ。
そして、アイオリア様は俯いたまま、ビクリとその大きな身体を震わせた。


「だが、背中や腰、腕の筋を痛めている箇所、それと、左足の骨折。それについては治療しなかった。」
「何故だ? お前ならば、それくらい治せるだろう、デスマスク。」
「考えりゃ分かンだろ。目覚めたら、見知らぬトコロいて、だ。しかも、そこから一生、出てはいけません、なンて横暴な事を突き付けられるンだぜ。普通の人間なら、理不尽だと言い張り、大暴れすると相場は決まっている。だが、怪我して動けないとなると、話は少し変わるだろ。暴れる気力も多少は落ちる。怪我が完治するまでの間に、ゆっくり冷静になって受け止める時間が出来るって寸法だ。」


確かに、元気いっぱいなら大暴れしかねない。
その人にしてみれば、治癒してもらった恩義など、これっぽっちも感じないだろう。
好きで聖域入りをした訳でもないのに、無理矢理に押し付けられた死罪の『ルール』。
怒って当然だ。


「ならば、デスマスク。お前は彼女を見捨ててくれば良かったと、そう思っているのか?」


聞いていて、流石に心苦しくなってきたのだろう。
俯いたままのアイオリア様が重い口を開いた。
その視線は、自身の足元と床に固定されたままで、項垂れた姿は何処か痛々しくもある。


「そうは言っちゃいねぇよ。ただ、聖域に連れ帰らなくても、方法は幾らでもあったってコトだ。」
「俺もデスマスクの意見に賛成だ。少し短慮だったのではないのか、アイオリア。」


畳み掛けるように、アイオリア様の行動を非難するデスマスク様とシュラ様。
二重の責め言葉にグッと喉を詰まらせ、結局は、それ以上の言葉を続けられない。
確かに、アイオリア様の取った行動は、非難されて当然だとは思えるのだけど、お二人も少し言い過ぎなのではないかとも思う。
これでは、あまりに彼が可哀想だ。


「大体、なンで連れ帰ったンだ? 怪我をしているのなら、現地に入っているボランティアの医師団にでも任せる事だって出来る。それがダメなら、せめて近隣の国の病院に運び込む。それくらいの知恵はあるだろ、幾ら単細胞のオマエとはいえ。」
「グラード財団系列の病院なら、事情を話せば快く受け入れてくれるだろうしな。治癒後の政治的な問題を考えると、そうするべきだったと、俺は思うが……。」


彼女は間違いなく東洋人だ。
アイオリア様が鎮圧に向かった地域の人ではない。
瞳の色は分からないが、髪の色も、肌の色も、現地の人のものとは全く違う。
つまり、彼女はたまたま、その場に居合わせた『外国人』。
一番の問題は『そこ』だった。





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