話を終えると、シュラ様は表情を曇らせたまま、私の方へと視線を送った。


「間違いないのか、それは?」
「私も、たった今、簡単に話を聞かされただけなので、ハッキリとした事は分かりませんが……。」


だが、デスマスク様が、わざわざココまで知らせに来たのだから、状況的には最悪なのだろうと思う。
そうでなければ、シュラ様の手を借りに来る意味がない。


「怪我をした女性という事は、だ。高い確率で同意を得ないままの聖域入りと考えて良いだろうな。」
「やっぱり……。」


聖域は『特別』であるが故に、『特殊』な場所だ。
そこには沢山の掟、『ルール』が存在する。
それこそ大きなルールから、小さなルールまで、多種多様の規律や規範などがある。
厳しい『ルール』の上に成り立っているからこそ、ココに住む事が許された人達は、聖域の内外で一般人と変わらぬ生活を送る事が出来るのだ。


その中で、誰もが必ず遵守しなければならない大きな掟がある。

『聖域を脱走するものは死罪』

これは何も聖闘士や候補生、雑兵など力を持つ者に限られた掟ではない。
この聖域に住む一般人も全て含み、この掟が施行されている。
それはつまり、この『特殊な場所』の情報を、迂闊に『外部』へ漏らさないための措置。
一般人とはいえ、聖域に住む『特別な人間』であるが故に、このような制限が課せられているのだ。
全ての『外出』は許可制であり、任務だろうとプライベートだろうと、許可なくして聖域外へ出た場合は、全て『脱走』とみなされる。
それが、この聖域の『ルール』。


私のような、聖域生まれ・聖域育ちの人間の場合、十歳になった時に自分で将来を選択出来るようになっていた。
聖域に残るか、聖域の外へ出るか。
外へ出る事を望んだ者に対しては、聖域内部に関する事の全ての記憶を消され、某国にある聖域と関係の深い教会に附属する全寮制の学校へ『孤児』として送られる。
それから十八歳まで経過を見た後、やっと社会へと出て行く事を許されるのだ。


聖域を出て行く事を希望する子も多少はいる。
でも、聖域に関する記憶を消されるという事は、即ち、両親の記憶も思い出も、全て消されてしまうという事。
多くは聖域に残る事を望み、そして、聖域のために貢献したいと望む。
ココで働き、ココで一生を終える。
聖闘士として、雑兵として、文官として、女官として、その他、多くのなくてはならない仕事を通じて聖域を支える。
私がそうであったように。


だが、聖域にとって一番の問題は、『外から来た人間』だ。
何故、私達が将来を選択するのに、十歳という低年齢の時であったのか。
それは、それ以上の成長をしてしまうと、記憶の操作が難しいからだ。
幼子ならまだしも、外から入ってきた人間が成人であれば、記憶を操作し、消去するのは難しい。
つまり、否応なく聖域で一生を過ごす事を余儀なくされる。
その場合、その人の意思は考慮されない。


だからこそ、相手の同意なしに聖域へと連れてくる行為は、絶対的な『タブー』とされていた。





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