私は、ただでさえ赤らんでいた顔を、更に赤くして、目の前のシュラ様をキッと睨むように見上げた。
だが、そんな私の視線など気にも留めずに、口の端にセクシーな笑みを浮かべて、悠然と私を見下ろすシュラ様。


「ボケッとしていたらキスをするぞと、何度も言った筈だが? そういうルールだろう?」


そう言いながら、ソファーにゆっくりと腰を下ろし、今度は彼の方が私を見上げる。
いたく満足気な、その表情に、ちょっと腹が立つ。
というより、いつから『隙あらばキスするルール』なんて、出来たんですか?
勝手に決めないでください、そんな事。


「で、どっちの心配をしていたんだ?」
「え?」


急に話が変わって、思わず私は聞き返していた。
が、直ぐに気付く。
話が変わったのではなく、横道に逸れていた話を、彼が元に戻したのだと。
アイオロス様から聞いた任務の話。
昼間の私のボンヤリの原因を問い質しているのだ、シュラ様は。


「あんな凡ミスをしてしまうくらい、気を取られていたのだろう? どっちの心配で頭を悩ませていた? 俺か、それとも、アイオリアか?」
「……シュラ様、です。」


ホンのちょっとだけ間があったのは、即答するのはアイオリア様に悪いような気がしたから。
でも、彼に嘘は吐きたくない、言いたくない。
だから、一呼吸の間を置いて、正直な気持ちを伝えた。


「俺が危険を伴う任務へ向かう事は、嫌か?」
「勿論です。戦闘があるなら、怪我をする事だってあるでしょう。小さな怪我ならまだしも、大きな怪我をするかもしれないですし。もしかしたら、それ以上だって……。」
「また、命を失うかもしれんな。」


黄金聖闘士として生きるシュラ様は、死ぬ事に恐怖など感じないのかもしれない。
それを覚悟の上で、毎日を生きているのだろう。
でも……、でも、私は……。


「私は怖いです。シュラ様が、もし帰ってこなかったら……。そう思うと、とても怖いです。」


巨蟹宮でデスマスク様に仕えていた時も、フラリと姿を見せるシュラ様の事を、素敵な人だと憧れていた。
それが、運命が巡り巡って、こうして傍で働けるようになり、心の中に開いた微かな恋心。
その恋は徐々に花開き、抑え切れない想いとなって、私の心を侵食して。
でもシュラ様には、ずっと心に想い続けている人がいるのを知っていたから、この恋は自分一人の胸の中で秘めておこうと思っていた。
思い掛けず、その相手が自分だと分かって、漸く繋がった心と心。
数日を経て、やっと少しずつ実感が湧いてきたばかりだというのに。


もし、今、シュラ様がいなくなってしまったら、私が抱くのは後悔だけだ。
想いが通じ合ったとはいえ、私達はまだ表面上の恋人同士でしかないのだから。
本当の意味で、まだ私はシュラ様と結ばれていない、彼のものになっていない。


「嫌です。いなくなっては嫌です、シュラ様……。」


思いだけが溢れて、勝手に言葉が唇から零れ落ちる。
これが、私の本心だった。
こんな中途半端な状態で、彼と離れ離れになりたくはない。
そんな思いばかりが、心の中を埋め尽くしていた。





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