「聞いたぞ。」


夕刻。
執務から戻ってきたシュラ様は、開口一番、そう言い放った。
顔はいつもの無表情ではあったものの、瞳には呆れの色が滲んでいる。


「別に黙っている程の事でもあるまいに。」


それでも教皇補佐であり、更には、時期教皇が確定しているアイオロス様からの直々のお話。
それを、先に伝えてしまうのは、どうかと思うのは仕方ない事。


「全く……。生真面目というか、律儀というか。」
「シュラ様に似ているんです。」
「俺に?」
「シュラ様だって、任務や執務が絡めば、とっても真面目だという話を聞きますよ。デスマスク様曰く、『アイツは頭が堅過ぎる』くらいだと。」
「ならば、俺達は似た者カップルだな。」


そう言って、私の頭をポンッと一つ叩くと、シュラ様は自分のお部屋へと入っていった。
彼が立ち去った方向を見ながら、ボーッと呆ける私。
触れられた頭頂部が熱い。
頭を叩いたシュラ様の手は、私の頭をスッポリと包み込めるのではないかと思える程に大きく、肉厚で男らしい。
戦闘ともなれば、あらゆるものを斬り裂く事が出来る手。
鋼であり、刃(ヤイバ)である手。


でも、私に触れる時は、そんな気配を微塵も感じさせない。
優しく触れて、それからじっくりと辿って、指先の動き一つ一つが、時にエロティックで。
じんわりと伝わる手の平の熱が、情熱的な時すらある。
あの手で、全てに触れられたなら……。
私の身体、余すところなく全てに、シュラ様のあの手が触れて、辿って、深い深い奥の奥まで確かめられたなら。
その時には、どれだけの喜びが得られるのだろう……。


徐々に身体が熱くなってくる感覚がした。
シュラ様のちょっとした仕草が、態度が、こうして時折、私の内側に火を点ける。
いつもいつも彼を拒否しておきながら、心の奥では求めているのだ。
欲しくて欲しくて堪らなくなってきている私。
身体は正直だから、こうして勝手に反応してしまう。
自分でも、どうしようも出来ないくらいに。


「どうした、アンヌ? 顔が赤い。」
「あ、い、いえ……。」


服を着替えて戻ってきたシュラ様が、未だ同じ場所で呆然と立ち尽くしていた私を見て、怪訝そうに顔を覗き込んできた。
慌てて顔を逸らしても、赤らんだ頬は隠しようがなく、誤魔化すには遅過ぎる。


「熱でもあるのではないのか?」
「ち、違います。何でもないんです。大丈夫ですから。」
「嘘を吐くな。その慌て振り、返って怪しいぞ。」


シュラ様が鋭いのか。
いや、私が隠すのが下手なだけ。


「し、シュラ様の後ろ姿に見惚れていただけです。」
「俺の?」
「シュラ様は無意識な仕草が……、格好良いと言うか、セクシーで……、あの、反則です。」
「そう言われてもな。」


そう言って、苦い笑いを浮かべた後。
スッと身を屈めて、私に避ける隙を与えぬ内に、掠めるような軽いキスを落とすシュラ様。
ほら、そういうところが反則なんです。
自覚があってやっているんでしょうか、この人は?





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