それにしたって、『シュラ様が上機嫌=私がシュラ様を好き』とは、思い至らないと思うんですけど。
でも、勝手に想像で飛躍した考えが、あながち間違ってはいない。
それが凄いと言うか、怖いと言うか。
やはりアイオロス様は、規格外のお人です。


「で、アイオリアなんだけど、少し戻ってくるのが遅れそうなんだ。」
「任務、長引いているんですか?」
「少しだけ、手こずっているようでね。」


任務に向かう前、三日程で片付けて戻ってくると言っていた。
戦闘を伴う任務だとは聞いていたけれど、そんなに大変な状況だったなんて。
シュラ様との事で浮かれていた自分が恥ずかしく思える。
アイオリア様が、一生懸命、辛い任務に当たっていたというのに……。


「そんな顔して……。もしかしてアイオリアの事、心配してくれているのかな?」
「勿論です。」
「ははは、アイオリアがキミに惚れるのも分かる気がする。真っ直ぐで、裏表がなくて、純粋で。アイオリアもシュラも、女性の好みは似てる。アンヌはまさに二人の理想のタイプだな。」
「そ、そんな事はっ!」


慌てる私を見て、また楽しそうに笑うアイオロス様。
だが、その顔は一瞬、直ぐにスッと真剣な表情に変わり、私を見下ろす眼差しも、何処か申し訳なさそうに曇った。
この目まぐるしい表情の変化には、やはりついていけない。
他の皆も、きっと彼のこのペースに飲まれてしまうんだわ。
その変化に、その話に、ついていけずに唖然とし、呆然とするしかない。
だから、アイオロス様は全ての『人』の上に立てる。
彼が跪くのは唯一人、アテナ様だけ。


「実は、キミをもっと心配させてしまう事になるかもしれない。」
「……え?」
「後二日待って、それでもアイオリアが戻って来れないようなら、シュラをサポートに行かせようと思ってる。」
「シュラ様を?」


シュラ様が……、戦地に赴く。
そう思うだけで、原因不明の悪寒が全身を走り抜けた。


いや、原因は不明などではない。
分かっている。
これは『恐怖』だ。
あの日のデスマスク様のように、闘いの中で命を失い、それっきり……。
そんな事も起こりうる。
戦いに赴くという事は、そういう事なのだ。


この磨羯宮に異動になって三ヶ月。
シュラ様と想いが通じ合ってから、まだ三日しか経っていない。
なのに、もしシュラ様が帰らぬ人になってしまったら――。


「そんなに心配しなくても大丈夫。シュラとアイオリアの二人が揃えば、きっと直ぐに片が付くだろう。危ない事など、何もないよ。」
「アイオロス様……。」


きっと不安の色が、顔にハッキリと出てしまっていたのだろう。
私を安心させるように、そう言うと、アイオロス様は、その大きな手で私の頭をポンポンと軽く叩くように撫でてくれた。





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