汗塗れのシュラ様のトレーニングウェアを運び、浴室へと向かった私。
曇り硝子の向こう側、シャワーを浴びているシュラ様のシルエットが映っている。
私は半瞬程、そのシルエットをボーッと眺めていた。


はっ?!
いけない、いけない。
こんなところで、ぼんやりとしている場合じゃなかった。
うかうかしていると以前のように、またシュラ様がシャワーから出てきてしまうかもしれない。


慌てて洗濯物を放り込み、開始ボタンを押すと、ゴウンゴウンと派手な音を立てて回り出す洗濯機。
急いで出て行こうとした私だったが、その音に気付いてか、シャワーを浴びていたシュラ様が、曇り硝子の向こう側から声を掛けてきた。


「……アンヌか?」
「え? あ、はい。」
「もう起きていたのか。ちゃんと眠れたのか?」


昨夜、椅子に座ったままの体勢で寝てしまった私への配慮だろう。
ちゃんと眠れなかっただろうから無理はしなくても良いとの意味が、その言葉には籠められている。


「大丈夫です。シュラ様が出て行った事にも気付かないくらい熟睡していましたから。十分、睡眠は取れました。」
「そうか……。だが、無理は禁物だぞ。」


ザーザーと打ち付けるシャワーの音の合い間を縫って、浴室独特のくぐもったシュラ様の声が響く。
シャワーを浴びているせいなのか、それとも、トレーニングを終えた後の疲れがあるからか、その声は妙に色っぽく私の耳に届いた。


「はい、分かっています。」
「なら良いが……。」


私の返事にも、未だ心配を滲ませた声。
先日の事があるから、基本的に私の行動を、彼はあまり信じていない。
大丈夫だと言いつつ、無理をし過ぎて倒れる、それが私だから。


キュッと軽い音がして、打ち付けるシャワーの音が止まった。
シュラ様が汗を流し終えたのだろう。
私は慌てて硝子の向こう側のシュラ様にペコリと頭を下げると、浴室を後にした。


パタパタと廊下を小走りに進みながら、結局、今の会話の中には、昨日の事を匂わすような言葉は何一つなかったと思う。
当たり障りのない会話だった。
でも、もしアルコールに酔って何も覚えていない状態だったのなら、朝、目覚めた時に、そこに私が寝ている事を疑問に思っていも良い。
だけど、シュラ様は、それについては何も問い質さなかった。
という事は、私がいる事に何の疑問も持たなかったという訳で。
つまりは、昨夜の事を全部しっかり覚えていると……。


でも、その割には随分と平然としていた。
口調もいつもと変わりなかったし、何一つ普段と変化のない朝だ。
リビングにアフロディーテ様とデスマスク様が転がっている以外は。


男の人って、こういう事の後に気まずくなったりしないのかしら?
女の子だったら、やっぱりドキドキしちゃうと言うか、心がフワフワ舞い上がっているような気がして、気分も何処か落ち着かなくなる。
男の人は、そういう気持ちにはならないの?
それとも、シュラ様だけが特別にあのような感じなの?


私は溜息を吐きつつ、キッチンへと足を進める。
途中、リビングに転がるデスマスク様の気持ち良さ気な寝顔を見つけ、何故だか、ちょっとだけイラッとした。





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