リビングに入ると、そこには未だデスマスク様とアフロディーテ様がいた。
ただし、二人共に熟睡中。
ソファーを占拠して長い足を伸ばし、優雅に眠るアフロディーテ様と。
ソファー争奪戦に負けたのか、クッションを抱き締めて床に転がるデスマスク様。


私は呆れの溜息を零すと、なるべく音を立てないよう、床に転がった酒瓶を数本、手に取った。
同じく音を立てないようにカーテンを開けると、パッと部屋の中が明るくなる。
そして、どんな惨状になっているかと怖れていた部屋の中は、予想に反して、殆ど散らかっていない状態だった。


デスマスク様とアフロディーテ様が空けたであろう酒瓶は、一箇所に集められて置いてあったし、食べ終わった後のお皿などは、流石に洗ってはいなかったが、キチンと重ねてテーブルの上に乗っていた。
後はキッチンに運んで洗うだけ、といった具合に、片付け易いように寄せられている。


酒瓶がゴロゴロと転がっているのは、昨日、シュラ様が座っていた周辺だけだ。
つまり、それはあの時、彼がハイペースで空けていたもの。
結局、お部屋を汚すのは、やはりと言うか何と言うか、シュラ様なのですね。
私は声に出さないよう、もう一度、小さく溜息を吐くと、眠る彼等を起こさないようにコッソリとお皿や酒瓶をキッチンに運んだ。


部屋の片付けをしなくとも、皿洗いだけで相当な量だ。
私はテキパキと仕事をこなし、三十分後には何とか朝食の用意に取り掛かる事が出来た。
そして、その準備も、後は卵を焼くだけとなった頃、バタンと遠くから響いてきたのは、入口のドアの開閉音。
もうすっかりお馴染みになってしまった音、その音だけで誰が入って来たのか私には分かる。
シュラ様が早朝トレーニングから戻ってきたのだ。
私はいつものように三点セットを抱え、気配を殺しつつダイニングの内側で待っていた。


――ドタドタドタッ!


デスマスク様とアフロディーテ様が寝ているのにも係わらず、普段と同じ派手な足音を立てて通り過ぎていくシュラ様。
旧知の仲だから遠慮なんてないのかもしれないけれど、きっとこれがデスマスク様なら、気を利かせて足音を忍ばせて歩くだろう。
アフロディーテ様なら、青筋を額に浮かべて、二人を叩き起こすかしら。


そう思うと、シュラ様は『二人だから遠慮しない』というのではなく、そこで寝ている相手が誰であろうとドスドス足音を立てて歩くのだ。
そういう、ちょっと無神経で、あまり気が利かない人、それがきっとシュラ様なんだわ。
優しい人だけれど、そういう無意識の冷たさみたいなところがあって、そこがまた素敵というか。
やだ、私、またシュラ様の事ばかり考えてる……。


足音が通り過ぎ、浴室へと入っていった音が微かに聞こえると、私はリビングに出て行った。
いつものように部屋の中に点々と脱ぎ捨てられているシュラ様の衣類。
リビングの入口から始まり、浴室へと続く廊下の方へ向かって一枚、また一枚。


最後の一枚である汗でビショ濡れの下着が、床で眠るデスマスク様の顔の僅か二十センチほど横に落ちているのを見つけ、私は笑いを堪えるのに必死だった。
この事を知ったら、きっと火が点いたように怒るだろうデスマスク様の顔が、容易に想像出来る。
私は急いで、いつものトングでシュラ様の下着を摘み上げ、汗で濡れた床を拭き、デスマスク様に知れてしまわないよう、その痕跡を消し去った。





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