ドックン、ドックン……。


身体中に心臓の高鳴る音が響いている。
これは……、私の心音?
いや、違うわ。
シュラ様の胸の内側から響く音だ。


キツく抱き締められて触れる胸の、厚い筋肉の内側から響いてくる鼓動が、私の身体をも震わせている。
まるでシュラ様の心音が、私の心音でもあるような気がしてくる。
それくらい今は近い距離にいるのだ。
触れ合う身体は勿論、心と心も。


「はああぁぁ。」


不意に大きく大きく息を吐く音が聞こえた。
それと同時に、私を抱き締めていたシュラ様の腕の力が緩み、強張っていた彼の身体も少しだけ弛緩する。
私は押し付けられていた彼の胸から顔を離し、様子を窺うように見上げた。


「安心した。」
「え……?」
「アンヌに断られるかもしれないと、柄にもなく不安になってな。」


フッと苦い笑みが零れた。
見上げるその表情に、私の胸がトクンと高鳴る。
いつもの、あの小さく零れる笑みも素敵だが、この苦笑いも何処となく哀愁が感じられて素敵。
いや、きっと今の私は、どんな表情でも素敵に見えてしまうのだろう。
それがシュラ様が見せるものであれば。


「本当に俺で良いのか? 後悔しないか?」
「シュラ様。『傍にいろ。』と言ったのは、ご自分じゃないですか。私はシュラ様のものなのでしょう?」


だったら、念押しなんてする必要もない。
彼がそう言い切った時点で、私はシュラ様だけのものになったのだから。


「好きですから。シュラ様の事が、大好きですから。」
「そう、か……。」


ゆっくりと自然に引き合う唇と唇。
それは当然のように強い引力を持って重なる。
今までのような一方的ではなく、恋人同士が交わす甘い熱を伴ったキス。
そっと触れて、それからジックリと押し付けて、相手の温度を唇で探り合う行為。
優しさと愛しさを分け合いながら、互いの頭を掻き抱いて。


「んっ……。」


心地良いキスだった。
蜂蜜の海にでも溺れているような気分になって、フワリフワリと意識が浮かぶ。
こんなにも心地良いキスは初めて。
胸をキュッとさせる甘さは、アルコールと同じくらいの濃度で私を酔わせていく。


――ドサッ!


その甘さにすっかり酔った私の身体が、キスを深めようとするシュラ様の力に負けて、いとも簡単にベッドへと倒れた。
いけない、これ以上は駄目だ。
そう思えども、上から圧し掛かられて、身体を押え付けられて。
そうして深められていくキスに翻弄されて、抵抗する意識を奪われてしまう。


もしかして、このままシュラ様と――。


いや、駄目よ、絶対に駄目!
だって、この壁の向こうには、デスマスク様とアフロディーテ様がいる。
二人とも、私達がそうなる事を目論んで、この部屋へ押し込めたのだから、今頃、したり顔でお酒を酌み交わしているに違いないもの。
そんな二人の思惑通りに事が進むのだけは、絶対に避けなきゃ。
僅かばかりに残っていた理性が、私の頭の片隅で、崩れ落ちそうになる意識を支えていた。





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