こめかみから髪の中へと入り込んだシュラ様の手が、私の頭全体を包み込むようにして支えている。
鍛え上げた闘士であるシュラ様の手は、とても大きい。
こうされて初めて理解する、片手で私の頭をスッポリと包み込めるくらいに、その手は大きいのだと。
ただ触れられただけでは、ただ手を繋いだだけでは、こんなにもハッキリとは気付けなかった。
包まれた頭頂部の全てが、彼の手から伝わる熱で発火してしまいそうだ。


「俺はこの六年ずっと、アンヌだけを見てきた。」
「シュラ、様……。」
「以前にも言ったと思うが、俺はこの想いをアンヌに伝える気はなかった。伝える事で、俺が死した後も、その心を縛ってしまうだろう。それを厭い、何も言わないでおこうと決めていた。そう、以前の俺は、アンヌの笑顔を見ているだけで十分、幸せだった。癒されていた。」


私を見つめる視線が熱い。
握り締められた手も、頭を支える手も、触れるシュラ様の全てが熱い。
そして、私は彼の熱さと真剣さに圧倒されて、ただ目を見開いて、その唇から紡がれる言葉を聞いているばかりだ。


「だが、今は違う。聖戦は終わった。だからと言って、俺の死のリスクが減った訳ではないが、それでも、アンヌとの未来を望んでも良いのではないかと、そう思えるようになった。こうして傍で暮らすようになって、その思いは益々、強くなった。アンヌのいない日々など今では考えられない。だから、他の誰にも奪われたくない。アンヌは、俺だけのものでいて欲しい。使用人としてではなく、俺の、ただ一人の大切な人として、俺の伴侶として、ココにいて欲しい。」


言葉を返せなかった。
いつも寡黙で、その唇から伝えられる言葉は少なくて、その言動だけでは、なかなか本心が見えないシュラ様。
彼の心の中には、これだけの言葉が、想いが詰まっていたのだ。
この饒舌は、きっと飲み過ぎたお酒のせいではないわ。
この六年間、ずっと心に溜め込んでいた想いが、溢れて止め処なく流れ出してきたものなのだと、そう思う。


「アンヌの残りの人生は俺が貰う。だから、他の男のところへなど行くな。俺の傍に、ずっと一緒にいてくれ。」
「あ、あの……。」
「いや、違うな。『いてくれ』、『いて欲しい』では駄目だ。」
「シュラ……、さま……。」
「アンヌ、俺の傍にいろ。ずっと俺の傍に。お前の人生も、お前の心も、他の全ても、皆、俺のものだ。」


刹那、握っていた手と、頭を支えていた手で、強く引き寄せられた。
座っていた椅子から身体が浮き上がり、ベッド上のシュラ様の腕の中へと、上半身だけが引き込まれる。
苦しい体勢なのに、少しも苦しくはない。
苦しさよりも、別の感情で心が満たされていて、私はその感情の渦の中にいたから。
少しの戸惑いと少しの不安。
大きな喜びと、そして、止まらない胸の鼓動に、この胸がはち切れそうだ。


「返事は、アンヌ?」
「は、はい。あの……。」
「ん?」
「傍に置いてください、シュラ様の傍に、ずっと。」


心は、とっくの昔に彼だけのものだった。
いつの間にか心奪われ、シュラ様が私の心の全てを占めていた。
彼が望むのなら、ずっと傍に。
一生、傍にいたいと思った。


***


※山羊さま、やっと告白^^
そして、初めての『お前呼び』ですv
『お前呼び』は恋人の特権!





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