目が合った。
シュラ様の頬に中指が触れたまま、数秒、動けなかった。
射抜くような鋭い漆黒の瞳が、私をジッと見上げている。
何か言い訳をしなきゃ。
そう思い付いた時には、もう遅く、触れていた手を強く握り締められていた。


「っ?!」


それは瞬きよりも素早かった。
私の手を握り締めたまま、シュラ様がその場に身を起こす。
唖然と口を開けたまま呆けていた私の眼前、露わになるシュラ様の逞しい肉体。
厚い胸板、張りのある腕の筋肉、引き締まった腹筋、括れた腰周り……。


「大事な事を言い忘れていた。」
「し、シュラ様っ!」
「ん、何だ?」
「あの、せめてもう少しだけシーツを……、上に引き上げてくださいませんか。」


そう言いながら、私はシュラ様から顔を背けた。
彼が掛けていたシーツは、ギリギリ腰の辺りに引っ掛かって留まってはいるが、少し身動ぎをすれば簡単に落ちてしまいそうな状態。
あれが落ちてしまったら大変だ。
今度こそ見てはいけないものを見てしまう羽目になりかねない。


シュラ様のその姿のせいもあるが、手を強く握り締められている事。
二人きりの空間で、こんなにも傍にいる事。
そのせいで、顔がどんどん熱くなっていく。
それだけじゃない。
シュラ様の手から伝わる熱が、私の身体にも広がって、体温までも上がっていくようだった。


「こっちを見ろ、アンヌ。」


ガサガサと音がして、彼がシーツを引き上げた事が分かる。
だが、何だか物凄く恥ずかしくて、照れ臭くて、私は顔を上げられなかった。


「アンヌ。」


なかなか顔を上げようとしない私に、痺れを切らしたのだろう。
手を握っているのとは反対の手が私の頬に触れ、そこから滑り落ちて顎を掴み、強制的にグイッと上を向かせられる。
瞳に映るシュラ様は、さっきよりも更に至近距離にあった。
ホンの少し顔と顔を寄せれば、唇が触れ合ってしまいそうな程、近くに。


「ち、近過ぎます、シュラ様……。」
「嫌か?」
「そ、その、嫌ではない、ですけど……。」


ドックン、ドックン……。


心臓が大きな音を立てて鳴り出す。
早くはない、けれど、確実に普段よりは大きく体内でこだまする心音。
自分の心臓の音が、耳に、頭に煩く響き、そのためか声が上手く出せないでいる。
そして、どうしてか眼前のシュラ様に目が惹き付けられて、背ける事が出来ない。


「寝る前に、言っておかなければならない事があった。」
「あ、あの……。」


顎を持ち上げていたシュラ様の手が、頬からこめかみへとスルリと滑る。
長くしなやかな指が、こめかみから髪の中へと潜り込み、刹那、自分の意思とは関係なく、身体がブルリと震えた。
髪ではなく頭皮に直に触れるシュラ様の指の感触。
手や肩や頬に指が触れた時とは、また違う、何処か生々しい感覚に、身体だけではなく、心の奥までもザワリと震えが走った。





- 8/11 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -