「そ、それ以上は脱がないでください!」
「脱がんと寝れんだろ。」
「……え?」
「明日も早い。俺はもう寝る。」
「シュラ様、何を――、きゃあっ!」


思い掛けない言葉が続いて、学習能力のない私は、またもや振り返ってしまった。
そして、先程よりも更に大きな悲鳴を上げて、彼に背を向けた。
振り返った瞬間、シュラ様はジーンズと下着を一気に脱ぎ捨てていたのだ。
いつの間に向きを変えたのか、こちらに背を向けていたから、危険なものを見てしまう事はなかったけれど……。


いやいや、それよりも!
またもやシュラ様のお尻を見てしまったなんて!
どんだけ露出狂なんですか、貴方は?!
どんだけ脱げば気が済むんですか、私の前で?!


額から訳の分からない汗が噴き出てくる。
だが、ジワジワと滲んでいく汗もそのままに、私は身体を固くして背後の様子を窺っていた。
聞こえてくるのは、ガサガサとシーツを捲くっているらしき音。
次いで、そのベッドへと潜り込むゴソゴソという音。
そして直ぐに、部屋の中はシーンと静まり返った。


「シ、シュラ、様……?」


恐る恐る振り返る。
そこには素っ裸で立っていたシュラ様の姿はなく、代わりにベッドがこんもりと盛り上がっていた。
部屋の灯りは煌々と点いたままだ。
まさか、こんな状況の中で、本当に寝てしまったのだろうか?


私は足音を忍ばせて、そっとベッドへと近寄った。
横向きに寝そべったシュラ様は、胸の少し下までシーツを掛けている。
更に近付くと、スウスウと寝息を立てているのが聞こえ、もう既に眠っている事が分かった。


それにしても、相変わらず行動の読めない人だわ。
いつもいつも、このペースに飲まれて翻弄されて、焦ったり、怒ったりする自分。
でも、それがシュラ様なら、どんな事をされても嫌じゃなかった。
彼の行動に対して、大きな声で抗議をしても、怒ってみせても、本当は少しも怒ってなどいなかった。


寧ろ、そうして翻弄される事が楽しくもあり、嬉しくもあった。
今もそう。
あんな風に怒りの声を上げても、心の中ではシュラ様との遣り取りにウキウキしてる自分がいる。
これが彼以外の人であったのなら、本気で怒っているだろうに、そうはならなくて。
いつも戸惑いはあれど、嫌悪感は一度も感じた事がない。


「シュラ様、本当に寝てしまったのですか?」


私はデスクの椅子をベッド脇へと運び、そこに座った。
規則正しい呼吸を繰り返して眠るシュラ様の表情は心地良さ気で、そして、とても綺麗だった。
端正で整った顔、頬にのびた伏せた濃い睫の影、黒髪から覗いた形の良い耳。
シュラ様が眠っているのを良い事に、私は思う存分、彼の顔を眺めていた。


ふと、その滑らかな頬に触れてみたい衝動に駆られる。
普段なら抑えられる欲求も、この状況下では難しく、無意識に手が伸びた。
私がいるというのに、勝手に眠ってしまったのだもの、少しくらいは触っても良いわよね。
こんな無防備に眠っている方が悪い。


そして、私の指が頬に触れた瞬間。
シュラ様は、その鋭い目を、パチッと見開いていた。





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