「アンヌよぉ。その立派なオツムをフル回転させて、よーく考えてみろ。『友』ってのは誰だ? その『友の家』てのは何処だ? そこに六年前に勤め出した女ってのは、どいつだ?」


え、それって……。
でも、でも、まさか、そんな事……、ある訳ないわ、絶対に、ある訳ない。
シュラ様の心に想う人が、そんな事――。


私は困り果てて、左隣のアフロディーテ様に縋るように視線を向けた。
でも、彼は楽しそうに目を細めて微笑んでいるだけで、私を助けようという気は微塵もないらしく、手にしていた白山羊のぬいぐるみを、私の肩にポンと置いて、クスッと笑った。


「ほら、言ってみろ。誰だ、友ってのは?」


デスマスク様に握られたマイク代わりの黒山羊のぬいぐるみが、私の唇に迫る。
これを買った時、シュラ様は『黒山羊は自分』だと言っていた。
そして、今、肩に置かれている白山羊は、私なのだと。


「…………マスク様、です。」
「ぁあ? 聞こえねぇなぁ。もっとデカい声で言えや。」
「で、デスマスク様……、です。」
「だったら、友の家ってのは?」
「巨蟹宮……、ですね。」
「だな。だったら、ソコに勤めていた女ってのは、一人しかいねぇよな?」


そう言い切られても、それでも信じられない。
だって、そんな事ないもの。
絶対にないもの。
シュラ様の好きな人が、わ、私だなんて、そんな事――。


途端に、シュラ様から聞いた数々の言葉が、頭の中を過ぎった。


『ちゃんと牽制はしている。他の奴等が手を出す隙などはない。』
『何せ彼女は折り紙付きの鈍さを誇るからな。ちょっとやそっとで靡いたりはしない。』
『美人だぞ。本人は全く自覚ナシだがな。お陰で悪い虫が次々と寄ってくるから困る。』
『色んな事に自覚を持ってくれれば良いのだがな。吃驚するくらい鈍くて困りものだ。だが、そんなところが彼女らしいというか、男から見れば心を擽られるとも言えるが。』


言われてみれば、巨蟹宮のような離れた場所にいるよりも、同じ宮の中にずっといれば、他の人への牽制はし易いだろう。
皆から鈍い鈍いと言われている私だ、『折り紙付きの鈍さ』と言われてもおかしくない。
でも、私は決して美人じゃないし、悪い虫なんて寄って来た例(タメシ)もない。


やっぱり、私じゃないわ。
私なんかじゃ……。


「オマエさ。俺のトコにいた時、なンで外出制限されてたか、その訳を知ってるか?」
「それは……。」
「下手に放し飼いにしておいたら、悪い虫が付き捲って、掻っ攫われちまうからだよ。俺はこんな性格だからな。オマエ以外の女官じゃ直ぐに逃げられちまうし、手離したくなかったってのが一番だ。それくらいオマエは美人なンだよ、モテてンだ。分かってンのか?」


そうだ、前にシュラ様が同じ事を言ってたわ。
デスマスク様による行動制限は、余計な虫が寄ってこないようにするための防衛策だ、と。
あの時、『アンヌも女ならば、少しは自分の魅力について考えた方が良いぞ。』と言われはしたけれど、冗談だと思って流していた。
でも、あれは冗談ではなく本気の言葉だった。
自分じゃ全然、分からないけど、私は美人……、なのだろうか?


「これだけの器量良しで、料理も上手くて、家事は何でもこなすし、いつも一生懸命な働き者だし。そりゃあ、男は放っておかないよね。シュラといい、アイオリアといい、キミのそんなトコロに惚れてるんだろう。」


そうか、そうなんだ。
そうだったんですね……。


アフロディーテ様の決定的な一言に、何だか色んな事を、その時、納得してしまった。





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