どうして今まで疑問に思わなかったのだろう?
シュラ様の好きな方は、聖域の内部にいると思っていた。
でも、自分に向かっていつも色目を使っているような、そんな女は面倒だと言い切っていたシュラ様だから、女官達の中にはいないとも思っていた。


だったら、誰なの?


シュラ様のお眼鏡にかなう素敵な女性が何処かにいるのだろうと思っていたけど、そんな人に心当たりはない。
少なくとも私の知っている範囲――、そう、この聖域内には。
聖域にいる妙齢の女性で、私の知らない人なんていないもの。
だったら、外部にいる人なのだろうか?


「外部にゃいねぇよ。大体、そンな滅多に会えない相手って感じじゃねぇだろ?」
「それは確かに……。」


シュラ様の話を聞いている限りでは、会おうと思えばいつでも会える場所にいる人だと思う。
とすれば、やはり聖域内部の人になる。
でも、聖域内部には、それらしい人は一人もいないし……。


「ふふっ。アンヌは相当に混乱してしまったようだね。」
「しゃあねぇな。俺等でヒントでも出してやるか、なぁ?」


不意に、デスマスク様の左腕が、私の肩を抱き寄せた。
吃驚して、その腕を振り解こうとした私に、右手に持った『何か』を突き付けてくる。
それは、ソファーの端に置いてあった、白と黒の二体の山羊のぬいぐるみのうちの、黒い方の山羊だった。
この宮に勤め始めた直ぐの頃、シュラ様と一緒に市街へ買い物に出た時に買ったものだ。


今では、このリビングの可愛いマスコット的な存在になっている山羊のぬいぐるみ。
シュラ様が手にしていても意外に違和感がないのに、同じ強面でも、デスマスク様が手にすると物凄く違和感を感じる不思議。
ていうか、これ、もしかしてマイクの代わりにしてます、デスマスク様?


「ねぇ、アンヌ。シュラは、その『彼女』の事、何と言っていたかな?」
「え、えっと……。『彼女は一服の清涼剤だった。』とか『一目惚れだった。』とか……。あ、あと『友の家に勤め始めたばかりの彼女のニコリと微笑んだその笑顔に、一瞬で心を持っていかれた。』とも言ってました、確か。」
「ほぅ、一目惚れねぇ……。で、その『友』っつーのは、誰の事だ?」
「は?」
「ソイツに一目惚れした時、『友の家』とやらに勤め始めたばかりだったンだろ? じゃあ誰だよ、その友ってのは?」


シュラ様の友人といえば、真っ先に思い当たるのは、今、私の両サイドにいるデスマスク様とアフロディーテ様だ。
デスマスク様のところにいたのは私だから除外するとして、ならば、双魚宮に勤める女官がシュラ様の……?


「ウチの女官は、去年、新しく入ったばかりだよ。」
「あ、そうですよね。それにシュラ様、六年もの間、ずっと彼女の事だけを想い続けているって仰ってましたし。双魚宮の彼女ではないですよね。」
「つか、オマエさ。なンで、巨蟹宮を除外すンだよ?」
「え?」


だって、巨蟹宮に勤めていたのは、ずっと私で代わりなかったもの。
デスマスク様に女性の気配はチラホラとあったけれど、巨蟹宮の内側には、私以外の女性は誰一人いなかった。
だったら、やはり除外しても良いと思うのだけど……。





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