「オイ、コラ。」


私がぼんやりとシュラ様が消えたキッチンの方角を眺めていたためか、右横のデスマスク様から小突かれる。
しかも、ちょっと力を入れたらしく、小突かれた腕が痛い……。


「いつまでも名残惜しげに見てンじゃねぇぞ。そんなにシュラがイイのか、あ?」
「そ、そんな、名残惜しげだなんて……。」
「ほらほら、二人共。話を逸らさない。」


痛む腕を擦りながら、デスマスク様に反論しようとすれば、今度は、左隣のアフロディーテ様から待ったが掛かる。
いつにも増して見事な連携プレイ。
彼等は私に休む暇など与えてくれない。


「で、さっきの続きだけど、アンヌは誰だと思ってるんだい、シュラの想い人?」
「あの、それは……。全然分からないと言いますか、想像も付かないと言いますか……。」
「全然? 本当に?」
「えっと、そうですね……。聖域内部の方だとは思うんです。シュラ様の話し振りからして。」
「そこまで分かってンなら、大体の想像くらい付くだろ? 女聖闘士か、とか。女官じゃねぇか、とか。」
「はぁ……。」


シュラ様から聞いている感じでは、聖闘士ではないと思うのよね。
多分、女官達の誰か、かな?
それ以外は全然、分かりそうもない。


「アンヌは聖域の女官になって何年になるんだい?」
「え? あの、えっと……。」
「ココに移って三ヶ月、俺のトコには六年だ。その前は教皇宮に勤めてたンだったか? 半年……、いや一年か?」
「はい、そうですね。」
「なら約七年半も、この聖域で働いているんだろ、キミは。だったら、今のキミが知らない女官なんて一人もいないんじゃないか?」


言われてみれば、そうだ。
私は女官生活が長いし、元々、生まれも育ちも、この聖域だ。
ココにいて、私が知らない人は数少ない。
聖戦の折、デスマスク様が亡くなってしまった時に、短い期間だけれど教皇宮に勤めていた事もあるから、最近の女官達の顔も全員知っている。
という事は、その中にシュラ様の想い人がいるという訳で……。


「あれ? でも、全然、想像出来ない。あの子達の中にシュラ様の想い人がいるなんて……。」
「そう思うのかい?」
「はい、だって……。」


シュラ様は前に言っていた。
執務の邪魔をするように話し掛けてきたり、話し掛けてはこないが、遠くでキャーキャー騒がしかったり、ジッと変な目で見ていたり、そういうのは煩わしいだけだ、と。
あれは確か、この宮に移ってきた最初の日だった。
どうして女官を雇っていなかったのかと尋ねたら、女官達の印象を、こう答えたのよね。


「ならば、そこにはシュラの想い人はいないって事だよね?」
「え……?」


間の抜けた声が出た。
お酒は飲んでいない筈なのに、思考が上手く働かなくて、私はただ目を見開いて、横にいるアフロディーテ様の端整な顔を見上げた。





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