「ほら、これも食え。」
「わぁ、美味しそう。このお料理は何ですか?」
「ベスーゴ・アル・オルノ、真鯛のレモン焼きだ。」


シュラ様が取り分けてくれた鯛を口に運ぶと、ほろほろの白身とフワリと香るレモンが、とても美味しくて、思わず頬が綻んだ。
そうしている内にも、シュラ様が色んなお料理を小皿に取り分けて、私の前に置いてくれる。
正直、申し訳ない気でいっぱいだったが、私が三人のために、お料理を取り分けようとすると、シュラ様がそれを制止するのだから仕方ない。
だから、今日は『主役』という言葉に甘えて、楽をさせてもらおうと決めた。
いつも飲み会の度に扱き使われているんだもの、今日くらいは許されるわよね。


「とっても美味しいです。」
「そうか、良かった。だが、アンヌの作った、この鯛のカルパッチョも美味いぞ。アンヌは鯛が好きなのか?」
「はい、大好きです。」


いつもながらの無表情でありながら、私の食べる様子を嬉しそうに見ているシュラ様。
気のせいか、そんなシュラ様が、いつにも増して格好良く見える気がする。
うん、きっとこの料理のせい。
普段が色々とアレなせいで、その分、素敵さ倍増と言うか、株が大きく上がったのだわ。
まぁ、黄金聖闘士様に向かって、そんな事を言っては失礼に当たるのだろうけれど。


「ほら、これも食え。」
「はい、ありがとうございます。」
「ふふっ。何と言うか……、今日のシュラは甲斐甲斐しいね。」


魚介をふんだんに使ったパエリアを差し出すシュラ様と、それを笑顔で受け取る私を、アフロディーテ様が微笑ましそうに見ている。
その視線を受けつつ、私は食事をする手を止められなかった。
だって、シュラ様の作ったスペイン料理、とっても美味しいんだもの。


「甲斐甲斐しいっつーか、コイツ等、既に夫婦みてぇだろ。」
「ごほっ! ふ、夫婦?!」
「大丈夫か、アンヌ?」


デスマスク様の爆弾発言に、私は激しく噎せた。
シュラ様と私の、何処をどう見れば『夫婦』に見えるというのか、さっぱり分からない。
そりゃあ、シュラ様と新婚夫婦だったら素敵だろうなとか、先程、ちょっとだけ想像はしましたけど。
でも、自分で勝手に想像するのと、他人にそう言われるのとでは、衝撃の度合いが違い過ぎる。


「て事は、そうだな……。『甲斐甲斐しく尽くす夫と、天然で鈍い奥様』って感じかな?」
「そりゃ、今だけじゃねぇか。普段は『散らかし放題・やりたい放題の傍若無人な天然夫と、それに翻弄される生真面目な嫁』だろ。誰がどう見たって。」
「おい、デスマスク。俺の何処が傍若無人だ。」
「全てだろ、全て。なぁ、アンヌ。」
「わ、私に振らないでくださいっ!」


本人を目の前にして、答え難い事を!
デスマスク様の言う通り、シュラ様ってば、いつも散らかし放題・やりたい放題なのですから。
でも、例え傍若無人だろうと、天然だろうと、シュラ様が『夫』だというのなら、それだけできっと幸せなのだろう。
そう思う私は、やっぱり相当、シュラ様に惚れているに違いない。





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