シュラ様が取り分けてくれたパエリアを全て食べ終えてしまうと、今度はデスマスク様が別の料理を私のお皿に取り分けてくれた。
デスマスク様ご自慢の絶品イタリア料理の数々。


「ほらよ、アンヌ。これも食え。」
「わ、今日のピザも美味しそうですね。ありがとうございます、デスマスク様。」
「つか、俺が焼いたピザなら美味くて当然だ。有り難〜く食えよ。」


相変わらずと言うか、料理に関しては(それ以外もだが)自信満々のデスマスク様から受け取ったピザを頬張り、こんな贅沢な食事が出来る事を幸せに思う。
これがいつもなら、給仕に走り回り、キッチンとリビングを何度も往復し、折角の料理も味わって食べる暇はなかっただろう。
しかし、今夜は素敵なんて言葉では足りない程に魅力的な黄金聖闘士の三人に囲まれて、主役と言われてもてなされ、贅沢というか豪華というか。


「どうした、アンヌ? 急に食べるペースが落ちたが、もう腹が膨れたのか?」
「違います。そうではなくて……。こんな贅沢な事、一生に一度きりかもしれないですから、一口一口を噛み締めて、じっくりと味わって食べているんです。」
「はっ、おもしれぇヤツ。こンなスペイン料理なんざ、オマエが可愛らしーく頼めば、いつでも、幾らでも作って貰えるだろ。そこの黒山羊さんによぉ。」
「そんな事、無茶ですよ。」


デスマスク様の言葉に焦って首を振る私と、そんな私を楽しそうに目を細めて見ているアフロディーテ様。
そして、私の横で淡々とお酒を飲みながら、淡々と食事を続けているシュラ様。
デスマスク様は、そろそろお酒が回ってきたのか、人をからかう事を楽しんでいる様子でニヤニヤしている。


「シュラ様がお料理するなんて、本当に稀なんですから。滅多にない事なんです。こんな風にお料理したの、私がココに来てからでは、今日が初めてですし。」
「おーおー。傍若無人な旦那様は、既に亭主関白ってか? オマエ、ホント人使い荒ぇなぁ。」
「お前よりはマシだろう、デスマスク。俺はお前のようにこだわりなどないからな。それに比べれば、ずっと楽だ。」
「テメェ。そんな事、言っといて、コイツを倒れるまで扱き使った事、忘れてンじゃねぇのか?」
「まぁまぁ。私から見れば、どっちもどっちだよ、キミ達は。」


呆れ顔で溜息を吐くアフロディーテ様から順に、私は目を丸くして三人を交互に見ていた。
正直、三人の会話のテンポについていけない。
仕方ないので、口は挟まずに聞くだけは聞いておいて、私は主にお料理をひたすら楽しんだ。


「ったく。そンな自己中街道まっしぐらに突き進んでたら、横から飛び出してきた暴走猫に掻っ攫われるぞ。つか、油断してたら、あっと言う間に押し倒されて、持ってかれるぜ。コイツ、相当に鈍いンだからよ。」
「大丈夫だ。そうならんよう、しっかりと見張っている。」
「今から、そンなに独占欲丸出しで、どうすンだよ。なぁ、アンヌ?」
「えっ?! な、何の話ですか?」


いきなり話を振られて焦る私。
てっきり自分には全然、関係のない話だと思って、右から左に聞き流していた。
途中から、掻っ攫われるとか、押し倒すとか言ってたようだから、例のシュラ様の好きな人の話でもしているのだろうと思ったし。
それに『暴走猫』って、意味も分からないし……。


「ほれみろ。鈍過ぎて、話になンねぇじゃねぇか。」
「仕方ないね。だって、アンヌだ。」
「酷いです、お二人とも。私、そんなに鈍くないって、前から言ってるじゃないですか。」
「何処がどう鈍くないってンだよ。聞いて呆れるぜ。」


いつものように自分は鈍くない事を主張する私に、デスマスク様は呆れ果てた視線を送り、アフロディーテ様は困ったように微笑を零す。
ただシュラ様だけが、私の方を見向きもせずに、黙々とお酒を飲み続けていた。





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