「もう! 本当に止めてください! それだけは勘弁してください!」
「別に俺が良いと言っている、問題ない。」
「問題ない訳ないですから! 大ありですから!」


キッチンに響くのは、焦りと苛立ちと困惑の混じった私の懇願の声。
そして、それをいつもの調子で受け流すシュラ様の淡々とした声。
パエリアの調理は、まだ始まってすらいなかった。
始まるどころか、その前段階で、私は必死にシュラ様の行動を止めようと試みていた。


「お願いですから、何か服を着てください!」
「シャワーを浴びたばかりで暑い。それに、料理をし出したら、益々、暑くなるだろう。」
「だからって、下着一枚だけの姿に、エプロンだなんて!」


そう、シュラ様は先程の派手なパンツの上に、黒の短いカフェエプロンだけを腰に捲いて、これから料理をしようとしているのだ。
勿論、私はそれに対して激しく抗議し、何をしてでも服を着てもらおうとした。
だが、相変わらず強情なシュラ様は、さっぱり私の言う事を聞いてくれない。


「それじゃ、まるで裸エプロンじゃないですか……。」
「違うぞ。ちゃんとパンツを履いている。」
「そうじゃなくてですね……。」


私から、いえ、シュラ様以外の人の目から見れば、完璧に『裸エプロン』です。
特に前からだと、そうとしか見えない。
後ろ姿だけは、辛うじてエプロンの細い隙間から下着が見えているので、裸じゃないと分かりはするけれど。
そうじゃなければ、どう見たって裸にエプロンだけをして料理をしている非常に怪しい人にしか見えない。


「兎に角、何でも良いですから、早く服を着てください!」
「暑い、ウザい、面倒だ。」
「暑かろうが、ウザかろうが、裸で料理など、人間のする事ではありませんから!」
「む? アンヌは俺が人間じゃないとでも言いたいのか?」
「だから、そういう意味ではなくてですね! 肌に油が跳ねてきたら、危ないでしょう? 料理は結構、危険なんですから!」
「こうみえても聖闘士だ。油くらい問題ない。」


ああ言えばこう言うシュラ様と、終わりの見えないエンドレスな言い合いを続ける私。
これが他の事であれば、私が途中で妥協もするのだけど、今日はそうはいかない。
というか、途中で諦めたりなんかしたら、最後まで裸エプロン(にしか見えない姿)のシュラ様と、料理をしなければならなくなる。


「強情過ぎです、シュラ様!」
「む?」
「何でも良いから、服を着てくださいっ!」


私は鬼の形相で、下着の上にエプロンを捲こうとしているシュラ様の手を押し止めた。
エプロンのウエスト部分をギュッと握り締め、何とかして身に着けるのを阻止しようと、グイグイと引っ張る。
意地でもエプロンを捲こうとするシュラ様と、それを全力で引っ張る私が、絶妙な均衡を保った状態で動きが止まり、このまま千日戦争へと突入かと思われた。


その時――。


「……あ? 何やってンだ、オマエ等?」


呆れ果てた声がキッチンの中に響き、ハッとして顔を向けた瞬間、私達は互いに力を抜いてしまったようで。
引っ張り合いの均衡を失って、大きくバランスを崩した私は、エプロンを引っ掴んだまま、その場に尻餅をついていた。





- 4/8 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -