まるで時間が止まってしまったかのように、私達は凍り付いて向かい合った状態から動けずにいた。
キッチンの入口に立ち尽くすデスマスク様。
下着一枚の姿で私の前に立ちはだかるシュラ様。
そして、シュラ様から奪ったエプロンを握り締め、床に座り込む私。
それは多分、ものの数秒程度の事なのだろうけれど、私には数十分もの時間を、そこでそうして固まっていたように感じられた。


動かない身体は放っておくしかなく、私は視線だけを動かして、デスマスク様の顔を見上げる。
ポカンと口を開けたままの彼は、ノロノロと首を動かして、まず半裸のシュラ様を見て、それから、その前に座り込む私を見て、そして、もう一度、派手な下着姿のシュラ様を見た。


「あ〜、ワリぃ……。邪魔したな。」


困ったように苦笑いを浮かべ、人差し指でポリポリと頬を掻く仕草。
次いで、クルリと踵を返すと、デスマスク様はキッチンから出て行こうとする。
えぇ、明らかに激しく勘違いしたままで!


「ま、待ってください、デスマスク様! 誤解ですから! お願いです、行かないで!」
「……あ?」


自分で意識するより先に、デスマスク様を引き止めていた私。
このまま立ち去られてしまっては、変な誤解をされたままになるもの。
それだけは絶対に避けなきゃ!


「誤解? 何がだ?」
「あ、あれは、シュラ様が服を身に着けずに、下着の上からエプロンを捲こうとしていたので、それを阻止していただけです。決して、私がシュラ様の服を脱がしていたとか、そんなハレンチな事はしていませんから!」
「あぁ? 下着の上からエプロンだぁ?」


そう言って、デスマスク様は私の肩越しに、キッチンで立ち尽くすシュラ様に視線を送った。
それこそ、頭の先から爪先まで舐めるように視線を上下に動かして、下着一枚のシュラ様を品定めの如く眺める。


「オマエ、ンな馬鹿な事しようとしてたのかよ?」
「悪いか?」
「悪いっつーか、アホじゃねぇの? 裸で料理するヤツなんざ、聞いた事もねぇぞ。」
「そうですよね、そうですよね!」


呆れを多分に含んだ声で、鋭い瞳をシュラ様に向けるデスマスク様。
そして、それを同じだけ鋭い瞳で睨み返すシュラ様。
でも、下着一枚だけの姿では、いつもと同じだけの迫力は出せてはいないのだけれど。


「こんなクソ暑い日に、服など着て料理など出来るか。暑さにやられる。」
「料理は暑さとの戦いなンだよ。そンくらい耐えろ。ったく、面倒な山羊さんなこって。」
「我慢出来んもんは、我慢出来ん。」


シュラ様がフンと小さく鼻を鳴らす一方で、デスマスク様の顔にはいつものニヤリ笑顔が戻っている。
こういう時のデスマスク様は大抵、相手にワザと喧嘩を吹っ掛けたり、意地悪にからかって楽しんだりするのだ。
巨蟹宮に勤めていた頃、私も何度、そんな彼に弄られ倒されたか分からない。


「つか、オマエ。それって、アレだろ? 頑張ってアピールしてるワリには、相変わらずの鈍さで、全然気付かれてねぇじゃねぇか。」
「煩い、黙れ。」
「努力が足りねぇンじゃねぇの? いっそソレも脱ぎ捨てて迫っちまえよ。」
「黙れと言っている。叩っ斬られたいのか?」


眼光だけで射抜かれてしまいそうなシュラ様の鋭い視線を物ともせず、カラカラと笑い続けるデスマスク様は、ベチベチとシュラ様の裸の肩を叩いた後。
何故か、私に向かってウインクを一つ、飛ばした。





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