――ドタタタタッ!


キッチンにいても、リビングや廊下を歩くシュラ様の無遠慮な足音がドタドタと響いてくる。
急いでシャワーを浴びたのだろう、あれからまだ十分程しか経っていない。
私と一緒に料理をするのが楽しみで、急いで出てきてくれたというのなら凄く嬉しいのだけど、実際のところは、早くパエリアの調理に掛かりたいからなのだと思う。
バタバタと足早な音が、徐々に近付いてくるのを聞きながら、私は自分の勝手な妄想に苦笑いした。


それにしても、相変わらず派手な足音。
シュラ様って、もっとスマートなイメージがあるから、こういう煩い足音は立てなさそうな印象だけれど。
逆に、ドスドスと歩きそうなイメージのデスマスク様の方が、よっぽど静かに歩く。
デスマスク様はどちらかと言えば神経質で、シュラ様は比較的無神経、それが足音に如実に現れている。
だから、実際はイメージと逆なのよね。


「待たせた、アンヌ。」
「いえ、全然。他にも色々とお料理を作ってま――、きゃっ!!」


ドタドタと最高潮に達したボリュームの足音と共に、キッチンに入って来たシュラ様。
勿論、私は満面の笑みで振り返り、それに応えた。
いや、応えようとした。
が、それは到底、無理だった。
視界に入ったシュラ様の姿に、私は悲鳴を上げつつ、また背を向けたのだから。


「し、シュラ様っ?! ど、どうしてそのような格好をっ?!」
「ん? 何の事だ?」
「だから、その……。ど、どうして下着一枚だけの姿なのかと、聞いているのです!」


そう、キッチンへと入ってきたシュラ様は、下着以外、何も身に着けていなかった。
見惚れる程、均整の取れた逞しい体躯に、ピッタリとフィットしたボクサーパンツ。
勿論、そんな姿で目の前に現れた日には、まともに視線を向けるなんて間違っても出来ない。
というか、この人は、下着だけというとんでもない格好で、これから料理をしようなんて思っているの?


「これか? 浴室に置いてあったから、履けという意味なのかと思った。」
「いえ、まぁ、確かに着替え用に置いたものですけれども……。」
「だろ。」
「いや、『だろ。』じゃなくてですね!」


だからといって、下着一枚でウロウロしますか、普通?
下着一枚で、料理しようと思いますか、普通?
いや、普通の人なら、その上に服を着ると思います、私は!
それって、常識じゃないんですか?!


「これ、アイオリアが持って来たんじゃないのか?」
「え?」


言われてみれば、背を向ける前にチラと視界の片隅に映ったのは、あの派手派手しい紫色の下着だった。
流石に、細かに散らされた星模様まで確認出来ないまま、背を向けてしまったけれど。


「折角だから、アンヌにも見せようと思った。」
「いえ、見せなくて結構です、そのようなもの……。」
「何故だ? 俺も派手なパンツが似合うという事を、ちゃんと見せておく必要があるだろう?」


見せておく必要なんて、一切御座いませんから!
寧ろ、『見せない』必要の方がありますから!


シュラ様と新婚生活、素敵に薔薇色どころか、毎日がうんざり灰色なのではないだろうか。
空想は空想、夢は夢。
現実は、それほど都合良くなどないと、私は先程とは違う意味の溜息を零した。





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