ふと気が付くと、シュラ様が私の手元をジッと眺めていた。
視線を追えば、その鋭い瞳が見つめている先には、捌いている途中だった鯛。
あ、これ、勝手にカルパッチョにしようとか思って調理を始めてしまっていたけれど、もしかして他に使うつもりだったのかしら……。


「美味そうな鯛だな。」
「え? あ、はい。カルパッチョにしようと思ったんですけど……、良いですか?」
「あぁ、構わん。それより、それはどうしたんだ?」


あ、そうか。
シュラ様も知らないのだわ、これをデスマスク様がココへ配達させた事。
私がその事を伝えると、シュラ様は軽く片眉を上げて、「そうか。」と一言、ポツリと言って、それから冷蔵庫の中に詰め込んである他の食材を物色し出した。


「今回は俺が料理、アイツが食材費という事だな。では、酒はアフロディーテか……。」
「料理しきれないくらい、いっぱいありますよね。」
「あぁ、そうだな。まぁ、これから買出しに行こうと思っていたから、手間が省けた。」


パタンと冷蔵庫を閉める音が響く。
食通で有名なデスマスク様、食材を見る目は誰よりも確かだ。
下手なものは作れんなと、そうボソッと零して、シュラ様は心持ち顔を顰めたまま、キッチンを出て行こうとする。


私は、その後ろ姿をぼんやりと見送っていた。
未だ、戻ってきた時のトレーニングウェアのままの後ろ姿は、広い背中が強調され、カジュアルないつもの服装とは、また違った雰囲気で彼の格好良さを引き立てている。
……と、キッチンを出掛かっていた足をピタリと止め、シュラ様が出入口の前でクルリと振り返った。


「シャワーを浴びてきたら、調理を始めるから、すまんが、食材はそのままにしておいてくれ。」
「あ、でも、下ごしらえくらいはしておきますよ。」
「良い、俺がする……。あ、いや――。」


少しの間。
そして、少しだけ考える素振り。
私は、そんな彼の様子を、ただ黙って見ている。


「そうだな……、折角だ。調理を一緒にしないか、アンヌ?」
「え? 一緒って……。あ、は、はい。喜んで。」
「ならば、急いでシャワーを浴びてくる。」


私が答えると直ぐ、キッチンから出て行ってしまったシュラ様。
それでも私は、彼の姿の消えた出入り口を、暫く見つめていた。


一緒に料理、か……。
何だか、新婚夫婦みたい。
いや、黄金聖闘士であるシュラ様と新婚夫婦だなんて恐れ多いけれど、でも、どうせ叶わない夢なんだから、心の中で勝手に思うくらいは許されても良いわよね。
うん、空想するくらい、私の自由よ。


シュラ様と新婚生活、か……。
きっと素敵に薔薇色なんだろうなぁ、なんて思いつつ、軽く溜息を吐く私だった。





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