8.飲み会準備A



午後になると直ぐ、箱一杯に詰め込まれた大量の魚介類の配達が来た。
届けに来たのは、いつも取り置きを頼んでいる聖域内の市場のおじさん。
でも、普段はわざわざ十二宮にまで配達などしてくれない。
不思議に思って首を傾げていると、どうやらデスマスク様にたんまりとチップを弾んで貰ったらしく、それでこの夏の暑い日差しの中を、ココまで上って来たらしい。
ちなみに、お会計も全てデスマスク様が持ってくれたようだ。


これ、シュラ様が作ってくれるといっていたパエリアの材料よね?
海老やら貝やら魚やら、新鮮な海の食材がギッシリで、取り敢えずはと、冷蔵庫に全て詰め込んだ。
折角の食材、鮮度が落ちたら大変だもの。
でも、流石に、これ全部をパエリアには使わないわよね……。


これだけの素晴らしい食材を目の当たりにして、料理をする者の食指が動くと言うか、どうにもウズウズして我慢が出来なくなった私。
海老をちょっとだけ使うくらいなら許されるわよね。
何て勝手に自分に言い聞かせ、海老を数匹拝借して、冷たいコンソメゼリーなどを作ってみた。


今日は、大酒飲みな上に、大食いでもある三人が集まるのだ。
パエリアだけでお腹が膨れるとは、到底、思えない。
そうよ、どうせお料理が足りなくなって、後から何かしら作れと言われるのだから、今の内に数品、用意しておけば良いのよ。
あ、なら、美味しそうな鯛もあったから、カルパッチョも作っておこうかな……。


「何をしている、アンヌ?」
「ひゃっ?!」


鯛の頭に包丁を入れたところで、背後から声が掛かり、私は悲鳴に近い驚きの声を上げて飛び上がった。
振り返ると、いつもの無表情でシュラ様が私の手元を覗き込んでいた。
いつもの事ながら、突然、こんな風に現れて吃驚させるなんて。
もう、本当に心臓が幾つあっても足りないくらいだわ。


「し、シュラ様っ!? もう、吃驚させないでください!」
「別にこっそり近付いた訳じゃない。俺の気配に気付かなかったのは、アンヌの責任だ。」
「そ、それは……。」


まぁ、確かに鯛を捌くのに夢中になっていて、周囲への注意を怠っていたと言えば、そうなのですが。
でも、まさかこんな時間にシュラ様が帰ってくるなんて、思いも寄らなかったですし!


「随分とお早いんですね。」
「今日は早く戻ると言っておいたと思うが?」
「でも、まだ四時前ですよ。」
「聖闘士候補生といえど、まだ子供だからな。直射日光の当たる海岸での修練は、本人の思う以上に体力を消耗する。程々で止めなければ、先日のアンヌのようになりかねん。」


そうか、候補生達の体調を管理するのも、上に立つ指導者の役目。
過酷な訓練に耐え抜く力と精神力も大事だけど、まずはシッカリとした身体を作る事が大切なんだと、シュラ様は言いたいのだわ。
前に闘技場での指導姿を見た時も思ったけれど、シュラ様はとても良い先生になれると思う。
今まで、一人の弟子も持った事がないのが、本当に不思議です。





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