「今日はありがとう、アンヌ。夕食、最高に美味かった。」
「そんな……。こちらこそ、ありがとうございます。」


夕食が終わり、これ以上の長居は申し訳ないからと、アイオリア様が帰り支度を始めた。
シュラ様も良く食べる方だが、アイオリア様は、それ以上。
育ち盛り、と言うには、ちょっと年齢が高いが、まだまだ成長期なのかと思わせる豪快な食べっぷり。
これだけ食べ残しなく綺麗に完食し、しかも、何度も「美味しい。」と言って頂けたのだ。
作った私としても、とても嬉しくなる。


「こんな美味いものを毎日食べているとは……。贅沢者だな、シュラ。」
「アイオリア様、それは褒め過ぎです。」
「そんな事はない。本当に美味いんだ。」


シュラ様もそうだけど、これだけ褒められると、流石に照れる。
巨蟹宮にいた頃は、これくらい出来て当たり前で、褒められる事なんて滅多になかった。
だからなのか、褒められる事に慣れていない私は、どうにもムズムズとした気分になってしまう。


「シュラも、そんな当たり前な顔をして食ってないで、もっと美味そうな顔をしたらどうだ?」
「あ、でも、シュラ様は、いつもとても美味しそうに食べてくださいますよ。ほら、今も。」
「は? この顔で?」


そう言って、驚いた風にジッと隣のシュラ様を眺めるアイオリア様。
あまりに不躾にジロジロと見ているものだから、シュラ様がまた怒り出すのではないかと、ヒヤヒヤしてしまう私。


「……分からん。俺には、いつもと変わらん無表情にしか見えんが。」
「シュラ様は表情豊かだと思いますけど。無表情に見えて、色んな感情が直ぐ顔に出ますから。」
「は?!」


いや、アイオリア様。
幾らなんでも、それは驚き過ぎじゃないでしょうか?
シュラ様だって、嬉しい顔や楽しい顔、機嫌の悪い顔、悲しそうな顔、色んな表情を持っている。
私には、それを見ていて分かるもの、シュラ様のその時の感情が。
まぁ、時々、何を考えてらっしゃるのか、全く分からなくなる時もあるけれど。


「無表情で悪かったな。これは昔からだ。今更、言う事でもあるまい。」
「あ、いや、別に悪いと言っている訳ではないんだが……。」
「お前が分からなくても構わん。アンヌにさえ伝わっていれば、な。」


そんな遣り取りをしながらの夕食。
思ったより和やかに進んでホッとした。
何せ、アイオリア様を勝手に夕食の席に招いてしまった事だし、シュラ様は、もっと機嫌が悪くなるかと思っていた。
でも、何事もなく済んで良かったわ。


「また、いつでもいらしてくださいね。アイオリア様。」
「い、良いのか?」
「はい、どうぞ。」
「アイオリア。お前は少し『遠慮』という言葉を覚えろ。一ヶ月は来るなよ。俺のプライベートを邪魔するな。」
「シュラ、そうやってまた彼女を独占するつもりか。」


あーあーあー。
もう、最後の最後で、そうなりますか。
全く、この人達は、どうしてこういがみ合ってばかりいるのだろう。
何とか二人を宥めて、アイオリア様を送り出した私は、シュラ様の大きな背中を見ながら、溜息を吐くばかりだった。





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