「アンヌ。」
「はい。何でしょうか、シュラ様?」


夕食の後片付けを終え、明日の朝食の準備をしている時。
シュラ様がフラリとキッチンに現れた。


何だろう?
その顔は、アイオリア様に言わせれば、『無表情』で変わりないのだが、何処となく心配そうな顔をしている。
何故だか私には、それが分かる。


「体調は、どうだ?」
「あ、はい。もう大丈夫です。いつもと変わりありません。」
「本当か? もし辛いようだったら、明日のデスマスク達との飲み会は断っても良いんだぞ。アンヌに無理をさせる訳にはいかん。」


あぁ、そうか。
私の身体の事を心配して、そんな強張った表情をしているのだわ、シュラ様は。
私が頑張り過ぎていないか。
少しでも無理をしていないか。
まだ不安に思ってくださっているのだ、彼は。


明日の飲み会は、あの三人の事、間違いなく深夜まで、下手をすると明け方近くまで終わらないだろう。
病み上がりの私を、それに付き合わせるのは申し訳ないと、私を気遣ってのシュラ様の言葉。
どうしよう、嬉しい……。


「本当に大丈夫です。それに、デスマスク様もアフロディーテ様も、明日の飲み会を楽しみにしてらっしゃるでしょうし、私ばかりへたばっている訳にはいきません。」
「全く、そういうところが……。」


ニコリと微笑んだ私の仕草を、空元気と受け取ったのか。
シュラ様は大きな溜息を吐いて、顔を曇らせた。
そして、伸びてきた指が、コツンと私の額を小突く。


「……え?」
「頑張り過ぎだと言っているんだ。こんな時くらいは、自分の身体を最優先しろ。」
「え、あ、はぁ……。」
「デスマスクも、アフロディーテも、あんな奴等、後回しで良い。俺にはアンヌの方がよっぽど大事だ。アンヌに倒れられては困る。」


小突かれた額が熱い。
その部分だけ火傷をしたかのように、ジリジリと熱が集中しているのが分かる。
何だろう、いつも以上にドキドキしてる。
私、まだ熱でもあるの?


「あ、あの……、すみま、せん。」
「何故、謝る?」
「いえ、何となく……。」


本当だ。
何で謝ったりしたんだろう、私。
きっとシュラ様を心配させているという、この現状に、申し訳ない気がしたからだ。


「兎に角、体調はもう大丈夫ですから、明日は予定通りにしてください。」
「…………分かった。」


彼の顔を見る私をジッと見下ろし、心の中までも見透かしてしまいそうなシュラ様の鋭い瞳。
たっぷりと間を置いてから、やっと了承の返事が返ってくる。
あぁ、やっぱりまだ信用されてないんだわ、一昨日の事があるから……。


「本当に、無理だけはするなよ。デスマスク達が何を言っても、適当に受け流せ。疲れたら、俺達の事は放っておいても構わん。部屋に下がっても良いからな。」
「はい。分かりました、そうします。」


もう一度、ニコリと微笑んで、そう言うと、シュラ様の顔の強張りが消え、いつものようにフッと軽い笑みをみせてくれた。
次いで伸びてきた手が、髪をクシャリと掻き乱すように撫でてくれて。
先程、小突かれた額と同様、髪の毛までもカアッと熱くなった気がした。



→第7話に続く


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