その日は、いつもと代わり映えのしない一日だった。
特に何が起きるという事もなく、普通にお掃除やお洗濯をして。
日の高い内は外出禁止命令が出ているので、暇になった午後は、帳簿の整理などをして時間を潰した。


ただ、昨日から今日の午前中まで続いた晴天から一転。
午後三時を過ぎた辺りから、急に雲が広がり、一気に陽が翳った。
この分だと、夕方までには雨が降り出しそうだ。
久し振りの天気の崩れ、あまり強い雨になっては買い物にも行けなくなる。
雲のお陰で日光にやられる心配もないし、気温も下がった事だし。
これなら倒れる心配もないと判断し、私はいつもより少し早い時間に、買い物へと出掛けた。


一般人達の暮らす居住区の近く。
そこには広い敷地を使って、市場が設けられている。
私は馴染みのお店で頼んでいた食料品や日用品を受け取ると、直ぐに帰路に着いた。
あまりゆっくりしていると、雨に降られてしまうかもしれない。


無理をしない程度に早足で戻ったのだが、それでも、途中から振り出した雨。
一応の保険にと、折り畳み傘を持ってきて良かった。
バシバシと傘に当たる雨が、次第に強くなってくるのが分かる。


「あれ、シュラ様?」


帰り着いたのは、午後四時を少し回った頃だった。
まだシュラ様が闘技場から戻ってくるには早い時間だったが、リビングには既に、その姿があった。


「おかえり、アンヌ。」


そう声を掛けた彼が、コチラに顔を向けたのは、一瞬だけ。
直ぐに顔を元の方向に戻し、全身から汗を流して、必死に腹筋をしている。
しかも、一般人の私の目では追えないくらいの猛スピードで。


「丁度良かった。それを片付けたら、ちょっとコッチに来てくれ。」


その場に立ち尽くし、唖然とシュラ様の怒涛の連続腹筋を眺めていた私は、掛けられた声にハッとする。
何か用事があるのだろうと思い、急いで紙袋の中身を片付けてしまうと、またリビングで腹筋中のシュラ様の元に戻った。


「今日は随分とお早いお帰りでしたね。」
「あぁ。候補生達への訓練は、四時で終わりだったからな。今日は夕方から語学講義があるらしい。」


聖闘士候補生として聖域に集まってきた少年達の国籍は、世界各国、選り取り見取りだ。
そのため、月に何度か語学講習が行われているのだが、それが今日であったらしい。
ギリシャ語は勿論、世界の主要言語は話せるようにと、彼等には厳しい語学の勉強が課せられている。


「お陰で俺は運動不足でな。外は雨だし、動き回る事も出来ん。仕方なく、こうして地味に筋力トレーニングだ。」


そう言って、少しもスピードを緩める事なく続けていた腹筋をピタリと止めたシュラ様。
ムクリと起き上がると、私の目の前、フローリングの床に、今度はうつ伏せに寝そべった。





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