何をするつもりなのだろう?
そう思って見ていると、シュラ様はうつ伏せのまま床に腕を付いて、グッと身体を持ち上げた。
あ、今度は『腕立て伏せ』をするのね。


「悪いが、アンヌ。俺の背に乗ってくれ。」
「……はい?」


右手だけで身体を支えたシュラ様が、左手で自分の背中を指差す。
それはつまり、私に『錘』の代わりになれと、そういう意味だ。


「や、で、でもっ! 私、重いですよ!」
「大した事はない。もう少し重くても良いくらいだ。」


そういえば、シュラ様に抱き上げられた事があったっけ。
ならば今更、体重がどうのとか言ったところで、誤魔化しようがないわよね。
それでも、シュラ様の背に直接、乗るとなると、とてつもなく恥ずかしい。
だってだって、私のお尻がシュラ様の背中に当たる訳で……。


「何も気にしなくて良いから、早く乗れ。」


急かすシュラ様。
気にしなくて良いと言われても、気にしますし、気になります!
この場合、気にしない方が、おかしいというもの。
どう考えたって、意識してしまうでしょう。


「ほら、早くしてくれ。」
「は、はい……。」


仕方なく覚悟を決めた私は、恐る恐るシュラ様の背に腰掛けた。
なるべく体重が掛からないよう、そっと。


だが――。


「それでは駄目だ。もっとシッカリ乗ってくれ。あと横向きではなく、跨ってくれた方が良い。」
「ま、跨るって! 流石に、それは……。」


無理、むり、ムリ!
絶対に無理!
横向きに腰掛けるのだって精一杯なのに、シュラ様の背に馬乗りになれだなんて、有り得ないにも程がある。
何処ぞの女王様でもあるまいし(アテナ様が幼い頃に青銅聖闘士の少年を馬にして跨っていたという噂は聞いた事がありますけど)、私には無理です、乗れません!


「横向きでは体重が一方にだけ片寄ってしまう。跨って貰った方が均等になって、俺としては良いんだがな。」
「そう仰られましても……。」
「普通に腕立てをしたところで、大したトレーニングにもならん。協力すると思って、俺の背に跨ってくれ。」
「は、はぁ……。」


そうまで言われてしまうと断り難い。
というか、断れない。
シュラ様からの頼み事は、どうにも拒否出来ない私だもの。


仕方なく、意を決してシュラ様の背に跨り、そっと腰を下ろした。
既に汗を大量に掻いているシュラ様の身体は、ゾワリとする程に体温が高く、意識しないようにと思っていても、身体が勝手に反応し、自然と意識してしまう。


あぁ、どうしよう。
こんな事、早く終われば良いのに……。
そう思っていた矢先。
ドゴリ! と派手な音が部屋に響いて、私はギュッと瞑っていた瞳を開いた。





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