でも、やっぱり心配。
だって、あれだけ部屋を平気で汚す程に面倒臭がりなのよ、シュラ様は。
洗濯物、ちゃんと干してくれてるのかと、不安になって当然。
適当にヒョイヒョイと引っ掛けてるだけじゃないのかしら?


「ちゃんと干しているから安心しろ。そんなに監視しなくても大丈夫だと、さっきも言ったろ?」
「あ、いえ、すみません! その、つい……。」


どうにもこういう事に関しては信用出来なくて、ついつい窓のところからバルコニーを覗き込んでいた私を見咎め、シュラ様は軽い溜息を吐く。
私は先程と同じく、慌てて身を翻し、リビングの中へと戻った。
その際、チラッと映った視界の片隅、彼が手にしていたシーツをピンと張って干していたのを見て、ホッと安心する。


何でも「面倒臭い。」の一言で片付ける訳じゃなく、やれば出来るのね、シュラ様も。
それをやらないから、お部屋の中が『ああなって』しまうだけであって、元々の生活能力が全くない訳じゃないんだわ。


「俺はアイオロスと違って、何も出来ない訳ではないぞ。ただ面倒なだけだ。」


私の考えを見透かしたように、バルコニーから部屋の中へと入ってきたシュラ様が、そう言う。
射手座のアイオロス様が、仁・知・勇を兼ね備えた聖闘士の中の聖闘士だと敬われながらも、その一方で、生活能力にかけてはゼロに近いというのは有名な話だ。
英雄と呼ばれる人は、大方、その何処かに欠落した部分があると言われるけれども、アイオロス様に関してそれは『自分一人ではマトモな生活が送れない』程に、家事全般において激しく不得手であるという事だった。
これは聖域内では周知の事実であり、私も勿論、それを知っていたから、小さく肩を竦めただけで、特に返事はしなかった。


「そう言えば、シュラ様。いつまでも、そのような格好をなさってて良いのですか? 執務に遅れてしまうのでは?」


今日も昨日に引き続き、教皇宮での執務当番の日だ。
いつもならばキチンと身支度を整えて、宮を出る時間なのだが、今日のシュラ様は普段着であるTシャツにハーフパンツ姿のまま。
これがデスマスク様なら毎日の事だと気にならないが、時間にはキッチリしているシュラ様が、こんなにノンビリ悠長に構えているなんて、遅刻してしまうのではないかと、酷く心配になってくる。


「心配はいらん。今日は休みだ。」
「え? でも、予定では確か――。」
「アフロディーテに休みを代わって貰った。どのみち、こんな状態では執務が手に付かんだろうしな。」


それはつまり、「私の事が心配だから。」という事なのですか?
一晩でこんなに回復するとは思っていなかったから、今日は看病する気で休みを取ったと、そういう事?


「だから今日は――。」


言い掛けた言葉を途中で止め、私の方へ向かって、スッと手を伸ばす。
大きな手が包み込むように頬に触れ、そのままゆっくりと撫でながら手を滑らせたシュラ様。
その感触に、ゾクリと震えが走る私の身体。


「アンヌも仕事は休みだ。今日は一日、何もせずにココで過ごして、身体を休めると良い。俺の事は気に掛けるな、必要な事は自分で出来る。」
「は、はぁ……」
「ん? 不満か?」
「い、いえ。ただ……。」


何もするなと言われても、どうして良いか分からない。
何もしないで一日を過ごすには、どうしたら良いのだろう?
何も思い付かないし、そんな日を過ごした事もないから想像も付かない。


その提案に、ただ立ち尽くしていた私の戸惑いを察知したのだろうか。
グイッと強く引かれた腕の力に身体が誘導されるまま、私はポスリとソファーの上、シュラ様の隣に座らされていた。





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