何だか、落ち着かない……。


あれから三十分が経ち、未だシュラ様と私は並んでソファーに座ったままでいた。
いや、『並んで座っている』と言うか、これはもう『寄り添っている』と言った方が正しいと思う。
まるで恋人同士であるかの如く、隙間なくピッタリと寄せられた身体。
正直、この暑さの中、こんなにも立派な体格の人に寄り添われては、返って暑い。
体感的にも、感覚的にも。
だが、少しでも距離を取れば、シュラ様の方から、その距離を縮めてくるか、もしくは肩、あるいは腰に腕を回して強引に彼の方へと引き寄せられてしまう。


何なのですか、これ?
私への嫌がらせですか?
私の気持ちを知った上で、精神的に追い詰めて楽しんでいるとか、そんなところですか?
きっと、あんなに心配掛けたのに、それを無碍にするような態度を取ったから、それに対する仕返しなのだわ。
そうでしょ、シュラ様。


「……シュラ様。」
「ん? 何だ?」
「喉、渇きませんか?」
「俺はそうでもないが、アンヌは渇いたのか?」


チラリとシュラ様の方を見れば、四分の三以上、読み進められた本が膝の上に乗せられていた。
これは、この磨羯宮に異動してきた初日、あのゴミ山の中から発見(寧ろ発掘)されて出てきたカミュ様の本だわ。
まだ返していなかったのね。
いや、読み終えてすらいなかったのね、シュラ様。
きっとカミュ様は、もう諦めていると思います。
この本は一生返ってこないだろう、と……。


「私、お茶淹れてきます。」


シュラ様は一瞬だけ片眉を上げて私の方を見たが、流石に今度は止められる事はなかった。
この三十分の間、「浴室のお掃除をしたい。」とか、「まだアイロン掛けが終わってないんですが。」と言っても、「今日は休みだから駄目だ。」と、その都度、却下され、シュラ様の横に半ば強引に留め置かれていたのだけど。
今のは「喉が渇いたのなら仕方ない。」と言ったところだろうか。
やっと間近で感じていたシュラ様の熱い体温から解放され、心も身体もホッとして、大きく息を吐いた。


「あ、アイスティーの作り置き、なくなってる。」


冷蔵庫を開けて、空になったガラスポットを取り出す。
多分、昨日のうちにシュラ様が飲んでしまったのだろう。
空になったポットをそのまま冷蔵庫に入れっ放しにしておくなんて、面倒臭がりのシュラ様らしい。


仕方ない。
新しくお茶を淹れて、氷を落として飲むしかないかな。
そう思って、戸棚の中から紅茶の缶を取り出したのは良いものの、何とこちらも空。
ついてない時には、ついてない事が重なると言うが、今がまさにそうだと思った。





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