「美味しい。とっても美味しいです、シュラ様。」
「そうか?」
「流石にスペインの方が作ったトルティージャは違いますね。こんな美味しいのを食べたら、私のなんて偽トルティージャとしか思えません。」


シュラ様の作ったオムレツは、漂う良い香りに違わず、とても美味しかった。
ホクホクのお芋と、香ばしく炒めた玉ねぎ、そしてアクセントの塩味の効いた生ハムが、熱々の卵の中にギュッと閉じ込められている。
卵にフォークを入れると、中からフワッと上がる湯気がまた視覚的にも美味しさを誘う。


「俺はアンヌの焼いたオムレツの方が好きだがな。」
「……え?」
「俺にとっては、アンヌの作る料理が世界一美味い。」
「あ、あの……。ありがとう、ございま、す……。」


顔色一つ、表情一つ変えずに、サラリとそんな事を言われると、何だか照れてしまう。
食事を進める手を休めず、当たり前の事だと言わんばかりにキッパリと言ってのけたシュラ様は、私がどれ程、その言葉に翻弄されているのか、知っているのかしら?
シュラ様の投げ掛ける言葉に、いつも一喜一憂しては、舞い上がったり、急降下したり。
私の心は常に忙しい。


朝食を終えると、洗い物をしようとする私を押し留め、シュラ様が自ら片付けると言ってきかなかった。
流石にここで逆らうと、またあの恐ろしい視線で睨まれそうな気がして、私は素直にその言葉に甘えた。


が、あの面倒臭がりのシュラ様の事。
ちゃんと洗い物をしてくれるのかと、手抜きしたりしやしないかと心配になってしまう。
思わず、キッチンの入口からジッと様子を眺めていると、視線で気が付いたのだろう。
こちらを振り向きもせず、洗い物の手を止めもせずに、シュラ様が声を掛けてきた。


「そんなに監視しなくても、ちゃんとするから大丈夫だ。」
「え?! や、そ、そんなつもりでは……。」


慌てて身を翻し、キッチンから離れた私。
そう言えば、お洗濯、もう終わってる頃よね。
パタパタと駆け足で浴室へと向かうと、籠にいっぱいの大量の洗濯物を抱えてリビングに戻る。
シュラ様が洗い物をしている間に、洗濯物を畳んで皺を伸ばして外に干してしまえば、時間も有効に利用出来て良いだろう。
そう思って、畳み終えた洗濯物を抱えた私は、一番大きな窓から続くバルコニーへと出ようとした。


その時……。


「何処へ行く気だ、アンヌ?」
「え? あの、洗濯物を干しにバルコニーへ行こうと……。」
「朝とはいえ、気温も高い。それにこの日差しだ。また倒れたらどうする?」
「で、でも洗濯物を干す程度なら短時間ですし、バルコニーは木の陰になっていますから大丈夫です。」
「昨日の今日だぞ。大丈夫など、そんな言葉、信用出来るものか。アンヌはココにいろ。外には出るな。良いな。」


私の手から強引に洗濯物の入った籠を奪うと、強い口調で叱るように私に言い聞かせた後。
シュラ様はさっさとバルコニーへと出て行ってしまった。





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