午前十一時半。
シュラ様のためのお弁当を作り、バスケットに詰め終えると、もう一度、窓の外を眺めた私。
だが、広がっているのは一時間前と何ら変わらぬ真っ青な眩しい空。
願いも空しく、その空に雲が掛かる事はなかった。


それはそれは重い溜息が唇から零れる。
正直、行きたくないという気持ちが大きい。
でも、だからといって、グズグズしている訳にはいかなかった。
シュラ様が待っていると思えば、『嫌だ』・『行きたくない』という気持ちは、少しだけ小さくなるのだけど。
外出する準備をしながら、『行きたくない』と『行かなきゃ』という二つの思いで、心は深い葛藤を続けていた。


それでも、外出の用意が終わると、追い込まれた者特有の覚悟が出来てくる。
こうなったら思い切って出て行くしかない!
そう心に言い聞かせて、暗い影の掛かる磨羯宮の柱の後ろから一歩、日の燦々と差す明るい外へと飛び出した。


クラッ……。


たった数歩進んだだけなのに、あっと言う間に目眩に襲われる。
気のせいか、目の前に延々と続く十二宮の階段が歪んで映り、更にはユラユラと揺らめいて見えた。


暑い、日差しで頭がガンガンする……。


なるべく日光に当たらないようにと服装は薄手の長袖を着て、首には格好悪いけどタオルを巻き、その下にはヒンヤリシートも貼っておいた。
頭には目元まである帽子、その上、黒の日傘まで差している。
なのに、全然、日光をシャットアウト出来てない気がする。
気がするんじゃなくて、出来ていないわ、確実に。


どうして皆は、こんな暴力的な日差しの中を平然と歩いていられるの?
目眩はしないの、視界が眩まないの?
気分が悪くならないの、意識が遠くならないの?


あれ、おかしいな……。
何だか足元に見えていた階段が、段々と近くなってるような……。
足が重い、身体が重い……。
気持ち悪い、頭が痛い……。


もう駄目、かも……。


「――っか?! アンヌ! おい、しっかりしろ、アンヌ! 大丈夫かっ?!」


誰かの声が……、する?
直ぐ近く、耳元で聞こえているのに、何故か凄く遠い声。
何だろう……、水中から外のざわめきが聞こえている時のような、何処か自分だけ蚊帳の外にいるような、そんな感覚で聞こえる声。


薄っすらと目を開ける。
見えるのは、何処までも同じ色をした石造りの階段ではなかった。
私の苦手な真っ青な空と、その前には太陽にキラキラと煌く金茶色の髪。
そして、心配そうに私の顔を覗き込むエメラルド色した綺麗な瞳が、虚ろな視界の中に掠れて映っている。


「アイオ……、リア、様?」


背中を支える逞しい腕の感触。
私、いつの間にか倒れていたんだ、階段の途中で。
視線を少し上にズラすと、建物らしき影が見えた。
どうやら、宝瓶宮の傍までは辿り着いていたらしい。
でも、教皇宮までは、まだまだ遠いこの場所で、既にダウンしてしまっていたなんて……。
ひ弱な自分が情けなく、そして、この程度のお遣いも出来ないのかと、女官としてのプライドが崩れ落ちそうだった。





- 4/7 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -