言伝(コトヅテ)なんて珍しい。
何かあったのだろうか?
あ、もしかしての、もしかして。
今朝の話の流れから、ついに例の『彼女』をディナーに誘う事になって、それで今日の夕食はいらなくなったとか……。


それはそれで、シュラ様がやっと告白まで漕ぎ着けた事が嬉しいような、ついにこの時がきてしまった事が悲しいような、とても複雑な気持ちだ。
スッキリしない曖昧な気持ちのままで、綺麗に畳まれた四つ折のメモを開く。
いかにも走り書きなシュラ様の、それでいてはっきりと書かれた文字に何故か胸の奥がドキッと鳴った。


『急ぎ片付けなければいけない仕事が入った。今日の昼は戻れそうにない。』


あ、何だ……。
『彼女』との約束が入った訳じゃなくて、『何かあった』方だったんだ。
そしてまた、ホッと安心しつつも、ちょっとガッカリもする複雑な私の胸の内。


『すまんがランチは弁当にして、教皇宮まで持って来てくれ。頼んだぞ、アンヌ。』


…………え?
教皇宮まで弁当を持って来い、ですって?


ハッとして振り返った私は、窓の外に広がる空をマジマジと見つめた。
何度見ても変わらない、そこにあるのは良く晴れ渡った青空。
雲一つなく、ひと目で今日もかなり気温が高いだろう事が伺える。


ど、どうしよう……。
こんな中、外に出るなんて自殺行為にも等しい。
これだけの強い日光では、多分、宝瓶宮まで辿り着けるか、それすらも怪しいわ。


私は縋(スガ)るように、もう一度、シュラ様から届いたメモを開いた。
何度読んでも同じ、そこには『弁当を持って来い』と書いてある。
どうして、食堂で済ますから今日のランチはいらないと、そう言ってくださらないのだろう。
あのとてつもなく長い階段を往復させてまで、私の作った料理が食べたいと、そういう意味なのかしら。
それはそれで嬉しいのだけれども、正直、その嬉しさよりも何よりも、危険を目の前にして嫌な汗が全身を流れ落ちる、その感覚にゾッとする。


どうして、早くに言っておかなかったのだろう、自分は日光に弱いのだと。
夏場は迂闊に外へは出られないのだと。


あのメールボーイさんに少し待って貰って、その場で直ぐに返事を書いて渡せば良かった。
これこれこういう理由で教皇宮までは行けませんとのメッセージを、シュラ様に届けて貰えば良かった。
メールボーイさんが、次にココを通るのがいつなのか分からない。
それを待っている間に、お昼になってしまう確率の方が高いだろう。


重い重い溜息を吐く。
だけど、どうしようなどと迷っている場合ではない。
『行かない』という選択肢は、今の私にはないのだもの。


メッセージが返せない以上、私は何が何でもランチを持って教皇宮まで行かなければならないのだ。
シュラ様が待っているのなら、私は女官としての仕事をキッチリと全うしなければ。


もう一度、窓の外を眺める。
せめてお昼までには、あの晴れ渡った空に恵みの雲が掛かって、曇り空になる事を願った。





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