2.晴天の下で



シュラ様とデスマスク様が教皇宮へと向かうのを見送った後。
未だぼんやりとする頭のままで、ノロノロと仕事を開始した。
長年に渡り身に染み付いた女官の習性で、多少、気持ちが何処かへ飛んでしまっていても、手や身体は勝手に動き、必要な仕事をこなしていく。


洗い上がった洗濯物を干し、広いプライベートルーム内の掃除とお片付け。
使われていない幾つかのお部屋も、放っておかずにキチンと掃除は怠らない。
頭を使わずとも出来る、こういった家事の数々は、ぼんやりとした意識から冷め切る前に、気が付けばすっかり終わってしまっていた。


時刻は午前十時半。
一息入れようと、作り置きのアイスティーをグラスに注いでダイニングテーブルの椅子に着く。
と同時に、隠し様のない大きな溜息が零れ出ていた。


デスマスク様の言う通りだわ。
その『彼女』。
幾ら鈍いといっても、もう既に『シュラ様に気がある』のだと分かっているなら、さっさと押し倒してしまえば良いのよ。
好きな相手に迫られて、嬉しくない女性なんていない。
まして、あの色気の塊のようなシュラ様が相手だ。
例え、未だ惚れていなくても、そんな行動を取られたら、確実に好きになってしまう。


そしたら、私もすっきりとココを出て行けるのに……。


多少後ろ髪は引かれても、キッパリと諦めを付けて出て行ける。
あの抱擁も、あのキスも、たまたま起きた事故だったと思えば、良い思い出になるだろう。
シュラ様との楽しかった思い出を胸に、新たな職場で仕事に邁進すれば良い。
そうすれば、きっと――。


「すいませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」


突然、思考の隙を突いて、部屋の中に声が響いた。
ハッとしてダイニングから飛び出すと、声のする方へと無意識に駆けて行く。


「あぁ、良かった。いらっしゃいましたか。磨羯宮の女官の方ですね。」
「はい、そうですが……。」


プライベートルームの入口にいたのは、年若いメールボーイだった。
広い聖域内、電話も通じていないココでは、ちょっとした伝言を伝えるために、こうしたメールボーイの存在が欠かせない。
小宇宙で会話が出来る黄金聖闘士様や、教皇宮やアテナ様からの正式な言伝を伝える使者を除けば、彼等が聖域の通信を一手に担っていると言っても過言ではないのだ。


「メッセージを預かってきました。これです、どうぞ。」
「あ、はい。有難う御座いました。」


私が小さなメモらしき紙切れを確かに受け取ったのを見て、そのメールボーイは爽やかな笑顔と共に去って行った。
メールボーイは、元は聖闘士候補生だった者が殆どだと聞いている。
幼い頃からの訓練で身に付いた健脚で、あっと言う間に長い階段を駆け下り、その姿は見えなくなってしまった。


私は手元に残った小さなメモを、ゆっくりと開いた。
何だか、少しだけ嫌な予感がする。
開いた紙の上に踊る文字には見覚えがあった。
流れるような美しく鋭い文字……、それはシュラ様の筆跡だった。





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