「あーあーあー。こんなところに食べ染み付けちゃって、もう。子供ですか、ウチの山羊さんは。」
「山羊ではない、八木だ。」
「どっちでも良いよ〜。」
「どっちでも良い訳ないだろ。その内、お前も同じ名字になる。山羊なんて嫌だろう。」
「う〜ん……。」


シュラの部屋では夕食が終わり、彼のワイシャツに附着してしまったソース染みについて押し問答中だった。
コロッケを胸に落とした事を少しも悪いと思っていないシュラは、自分の前に屈んで染みを何とかしようとしている飛鳥の頭頂部を、フンと鼻を鳴らして見下ろしている。
そんなシュラのワイシャツのボタンをプチプチと外し、飛鳥は染み抜きを試みようとしていた。
シャツの内側にタオルを入れて、染みの上から食器用洗剤を馴染ませた古歯ブラシでポンポン叩いていく飛鳥。
その手際の良さを黙って見ている間に、茶色いソースが内側のタオルの方へと落ちていく。


「うん、このくらいかな。さ、脱いで脱いで。サッと手洗いするから。」
「まだやるのか? このくらいで良いんじゃないのか?」
「洗剤が染み込んだままって訳にはいかないでしょ。軽く手洗いして干しておくから、明日、忘れずにクリーニングに出してね。」
「あぁ、分かってい――。」


ダンダンダンッ!


飛鳥がワイシャツを持って浴室へと姿を消すと、ほぼ同時。
シュラの部屋のドアが、けたたましく叩かれる音が響いた。
一体、誰だ?
シュラが眉間に皺を寄せ、元より鋭い目を更に尖らせる。
普通、この部屋のドアを直接叩いて訪ねてくる人はいない。
いるとすれば、この部屋を貸しているディーテか、同じく二階に部屋を借りて住んでいる隣室のデスだけ。
その他は、例え飛鳥でも、一階の裏口にあるインターホンを押して呼び出すか、バーから入ってディーテに取り次ぎを頼むしかないのだ。
今日の飛鳥も、ディーテに頼んで留守中のシュラの部屋に入れてもらい、彼の帰宅前に夕食の準備をしていた。


「……誰だ?」
「あ、俺、俺〜。」
「……オレなどという名の知り合いはいない。帰れ。」
「ちょ、待ってよ! 詐欺じゃないから! ミロだって、ミロ! 早く開けろよー!」


オレオレ詐欺みたいな言い方しないで、初めからちゃんと名乗れば良いものを。
チッと舌打ちをしながら、シュラは渋々ドアを開ける。
ドアの向こう側に立っていた酔っ払いのミロは、最初こそニコニコと笑顔だったが、現れたシュラの姿を見て、目を見開いた。
それはそうだろう。
彼の部屋から出てきたとはいえ、下はスーツのスラックス、上は何も身に着けていない素肌のまま、つまり半裸状態だったのだから。


「え? 何、半裸? ま、まさか、こんな早い時間から飛鳥を押し倒して、あんな事こんな事をして――。」
「してない。まだ、な。」
「まだって何だよ。後でする気満々じゃん。真面目なフリしてエロいわー、ムッツリだわー。」


ブーブーと文句を言いつつミロが部屋の中へと入っていくと、奥からシュラのワイシャツを持った飛鳥が姿を現した。
洗面台で洗ったワイシャツの皺を両手でパンパンと伸ばし、手早くハンガーに掛けて、空調の風が一番当たる場所に引っ掛ける。


「どうしたんだ、それ?」
「シュラがコロッケの染みを付けちゃったの。子供みたいでしょ。」
「へ〜、それで半裸だったのか。格好悪いな……。」
「煩い、黙れ。」


いつもの鉄面皮は何処へやら。
シュラは僅かに顔を赤く染め、鋭い目付きでミロを睨んだ。





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