シュラの鋭い視線は、見る者を威圧する。
だが、学生時代からの付き合いがあり、大学のサッカー部の後輩であるミロは、その視線に少しの威圧感も覚えていないようだった。
そもそもが見た目のままの怖い男ではない。
ミロやリアは後輩ではあるが、上下関係はまるでなく、友人として付き合っている。
タメ口も馴れ馴れしい態度も全く気にしないし、そんな事はどうでも良いとすらシュラは思っていた。


「あ、折角、脱いでるんだからさ。これ、試しに着てみなよ。」
「……何だ、これは?」
「フットサルのユニフォーム。今日はコレを届けに来たんだ。リアに頼まれてさー。ついでに置いてきてくれって。」
「私も見たい、ユニフォーム姿。ね、着てみせてよ、シュラ。」


勧められるままユニフォームの上着を着用してみる。
ホーム用の赤いユニフォームと、アウェイ用の白いユニフォームがあったが、取り敢えずホーム用の赤い方を着てみた。
サイズはピッタリ。
どうせならと、スーツのスラックスを脱ぎ捨てて、ユニフォームのパンツも履いてみた。
うん、悪くない。
というよりも、非常に似合っている。
流石は俺だと、心の中で思うシュラ。


「おー、似合う似合う。やっぱりスポーツマンはユニフォームが似合いますわねー。」
「シュラってさぁ、目付き悪くて顔が地味なのに、意外と赤が似合うんだよな。不思議な事に。」
「目付きが悪いと顔が地味は、余計だ。」
「いやいや。その二つを取ったら、シュラの特徴なくなるじゃん。」


カラカラと笑うミロの横で、飛鳥は白い方のユニフォームを広げて繁々と眺めている。
シュラと付き合っているとはいえ、土日は仕事で外出が出来ない飛鳥は、実は未だに彼がサッカーをしている姿を見た事がなかった。
ユニフォーム姿も、ユニフォーム自体も、彼女にとっては物珍しいものなのだ。
こんな機会は中々ないからと言って、飛鳥は手にしたスマホでシュラのユニフォーム姿をパシリと撮影した。
シュラの表情はムスッと不機嫌そうなままだったが。


「良いのか? シュラ、思いっ切り殺し屋みたいな怖い顔してたけど……。」
「良いの、良いの。あれがいつもだから、今更、気にしないの。それに今日の顔はマシな方だし。」
「本人を前にして言っちゃ駄目だろ、それ……。」
「構わん。それこそ、今更、気にしない。」


シュラはササッとユニフォームを脱ぎ捨てると、それをクローゼットの中へと仕舞い込み、自分は家着に着替えた。
土曜の練習試合は面白いゲームになりそうだ。
相手チームとは実力も拮抗しているし、あちらも良い選手が多く所属している。
一度で良いから飛鳥にも観に来て欲しいとシュラは思ったが、それが無理である事も重々承知していた。
商店街にある老舗の和菓子屋にとって、土日は週で一番繁盛する曜日だ。
祖父母と三人で切り盛りしている状態では、簡単に店を離れられない。


「飛鳥がお弁当作って応援に来てくれたら、シュラも大喜びするだろうに。俺も大喜びするけど。」
「百歩譲って応援には行けたとしても、お弁当を作る余裕はないかなぁ。出来て精々、和菓子の詰め合わせを持って行くのが良いところね。」
「弁当箱の蓋を開けたら、白米じゃなくてオハギだった、とか?」
「そうそう。サンドイッチ風どら焼きとかね〜。」


それも悪くはないな、そう思いつつも、シュラは口を噤んだ。
うっかり声に出してしまえば、相変わらず甘党だとか、糖分の過剰摂取だとか言われて、絶対に白い目で見られるに決まっているからだった。





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