「これ、シードルを使ったカクテル?」
「そ、正解。アップルジャックダイアモンドさ。女の子受けするかと思って、試しに作ってみたんだけど、どう?」
「俺で試すなよ。どうって言われても、俺は女の子じゃないんだから。」


とはいえ、これは相当にアルコール度数が高そうだ。
女の子受けというよりも、女の子を酔い潰すためのカクテルを試しに作ってるんじゃないかと、ミロは疑いの眼差しをカウンターの中に立つ男に向けた。
おぉ、怖い怖い。
綺麗な薔薇には棘があるどころか、甘く危険な罠を張っているようだぞ。
にこやかに微笑むディーテの顔を見遣り、ミロはブルリと身体を震わせた。


「……で? 今日は何しに来たんだい? ただ飲みに来ただけじゃないんだろう?」
「シュラに、ちょっとした用事。フットサルチームの新しいユニフォームが出来上がったから、飲みに行くついでに、届けてくれって言われちゃってさ。」


ミロに頼んだのは、多分、リアだろう。
ミロとリア、そして、シュラは、同じフットサルチームに所属している。
チームの練習日は火曜日の夜と土曜日の午前中。
シュラは身体を動かすのが好きで、尚且つ非常に真面目なので、滅多に練習を休む事はないのだが、昨日は残業で練習に行けなかったとボヤいていた。
ボヤきついでに、アンダルシアを何杯も煽っていった。
勿論、友人だからといって飲み代をタダにする程、ディーテは甘い男ではない。
お勘定は家賃に上乗せされている。


「土曜日には他チームと練習試合なんだ。その前にユニフォームを渡しておかなきゃ駄目だって言うからさ。」
「誰が?」
「リアが。」


やはりリアか。
アイツもシュラに負けず劣らずの真面目クンだからね。
そう思いながら、額に掻いた汗を拭いつつ大きな身体を揺らして得意先を回るリアの姿を、ディーテは頭の中に思い浮かべた。
きっと今日も取引先の個人病院の可愛らしい若手看護師さんにキャーキャー言われたり、ベテラン看護師さん達にからかわれたりしているのだろう。


「リアは転職した方が良いと思うけどね。折角、あれだけの肉体がありながら、製薬会社の営業マンだなんて勿体ない。」
「俺もそう思うわ〜。ジムのインストラクターとかの方が似合ってそう。」
「そういうキミは、最近どうなんだい、仕事の方は? マメにフットサルの練習にも行ってるみたいだし、随分と暇そうだ。」


それがさ〜、と言って、バタリとカウンターに突っ伏すミロ。
どうやら今は仕事が少なく暇な時期らしい。
モデルという職業柄、仕事には波がある。


「どうりで毎日のように飲みに来てると思ったよ。」
「でも、それも来週までだから。来週の水曜日までだから。」
「何? 次の仕事、決まっているのかい?」
「そ、いつもの下着メーカーの新作発表会があるんだ。その前にポスター撮りと広告の撮影。あそこの社長が俺を気に入ってくれてるから、新作のモデルには絶対に呼ばれるんだ。有難いよ、ホント。」
「あぁ、下着のグディセか。じゃ、また雑誌やポスターでミロのエロい下着姿を拝めるって訳だね。」


どうせなら本当に拝んでくれりゃ良いのに。
そしたら、肉体美の神様からの御利益が得られるかもしれないのに。
なんて、冗談めかして笑うミロ。
そこにスッと差し出された新たなグラスは、先程と同じアップルジャックダイアモンドだ。
甘いと散々に文句を言いながらも、すっかり気に入ってしまったらしいミロは、美味しそうにコクコクと喉の奥へとカクテルを流し込んだ。





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