バクバク、もぐもぐ。
もっしゃもっしゃ、ガツガツ。
サラリーマンというよりは、まるでトップアスリートのような体躯を誇るシュラは、兎に角、良く食べる。
食欲は常に満点。
飛鳥がコロッケを一つ食べる間に、シュラは二つ、いや、二つ半は軽く平らげてしまう。
「シュラ……。」
「何だ?」
「まだ着替えの途中だったんじゃないの?」
そう。
彼はネクタイを外したところで着替えを止め、飛鳥に詰め寄ったため、未だワイシャツにスラックスのまま。
そんな格好で豪快に夕食を掻き込んでいるのが、彼女はどうにも心配で堪らないらしい。
「俺のスーツ姿が好きなんだろう?」
「好きというか、物珍しかっただけで……。」
「セクシーだって言ってただろうが。」
「脱ぐ瞬間だけね。ただ単にスーツを着てるだけの姿なら、そんなには……。」
スーツ姿が常にセクシーだというなら、会社の女の子達が放っておかないだろう。
もっともっと大騒ぎになっていておかしくない。
だが、そんな事は全く起こっていないのだから、今のところシュラの色気はスーツの中に押し込められて、外には全く漏れ出ていないという訳だ。
飛鳥としては安心して会社に送り出せる。
「寧ろ、ワイシャツに食べ物の染みが付くんじゃないかと、そっちの方が心配。」
「そんなもの、クリーニングに出せば問題ない。」
「ソースの染みを甘く見ては駄目ですー。そう簡単には落ちないんですからねー。」
そんな話をしている間にも、ポロッとシュラの箸から零れ落ちたコロッケの欠片。
見事にワイシャツの胸元に落下して、ジワリと茶色い染みが広がっていった。
***
その頃、階下では――。
カロンと微かなベルの音。
それに次いで、静かな足音と共に、滑り込むように長身の男が店内へと入ってきた。
背中に揺れる長い髪、ラフでいながら洒落た服装、静かに、それでいて、一歩一歩力強く進む歩き方さえも、不思議と人目を惹く。
一言で言えば、『ゴージャスな男』。
何をしても格好良さが滲み出て、隠し切れない。
そして、隠す気も全くない。
「いらっしゃい、ミロ。」
「ディーテ、いつものな。」
「分かってるさ。」
真っ直ぐにカウンターへと向かい、先程まで飛鳥が座っていたスツールに腰掛けるミロ。
店に居た客達がチラチラと彼の姿を盗み見ていると知っていながら、そんな事にはまるで気にせずグラスを傾ける。
見られていることに慣れている仕草、芸能人かもしれない。
常連以外の客が少しだけ色めき立つが、店の静かな雰囲気が、それ以上のざわめきを彼等に許さなかった。
「シュラ、帰って来てる?」
「帰っては来ているけど、ね……。」
「何? 何かあったのか?」
「何もないけど、飛鳥が来ている。」
「あ、そー。」
ミロは納得したように声を上げて、トンとグラスを置いた。
すかさず新しいカクテルのグラスが、笑みを浮かべるディーテの手から差し出される。
口に含むと、林檎ベースのフルーティーな味が広がる。
予想外の甘いカクテルの味に、ミロは僅かに顔を顰め、不機嫌に唇を尖らせてみせた。
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