ガチャリと音を鳴らして、再び取り出した山羊座キーホルダー付きの鍵。
それを鍵穴に押し込んだところで、パタパタと軽快な足音が近付いてきた。


「……飲んでたんじゃなかったのか?」
「シュラが帰って来るまでと思ってたから、少しだけね。ちょびっと、一杯だけ。」
「そうか……。」
「それに、ほら。肉じゃがコロッケ、シュラと一緒に食べるつもりだったし。」
「そうか……。」


恋人の飛鳥に対しても、随分と素っ気ない返事をするものだ。
まぁ、いつもの事だとして、彼女は全く気にしていないが。
言葉が少ない事に腹を立てていては、寡黙なシュラと付き合っていくのは困難になる。


パチンと部屋の電気を点けると同時に、フワリと鼻腔に届いたのは、既に食卓に用意されている夕食の良い匂い。
炊飯器から上がる炊き立て白米の蒸気の匂い、香ばしい揚げ立てコロッケの匂い、湯気の上がる鍋からは豆腐とワカメの味噌汁の匂いがしている。


「米と味噌汁?」
「そう。コロッケはコロッケでも、今夜は肉じゃがコロッケだから。パンとかよりも、和食の方が合うかと思って。」
「そうか……。」


再び素っ気ない返事をして、シュラはスーツの上着をハンガーに掛けた。
それから、ネクタイの隙間に指を突っ込んだとろこで、妙に強い視線を感じて、パッと振り返る。
すると、味噌汁を温め直すためにコンロに向かっていた筈の飛鳥が、対面キッチンの向こう側から、ジーッとコチラを眺めているではないか。
それこそ、瞬きもせずにジーッと。


「……何をそんなに俺の事を眺めている?」
「はっ?! あ、いや、その……。」
「俺の着替えなんぞ見ていて、そんなに楽しいか?」


シュラはベッドの上に解いたばかりのネクタイを放り投げると、ドカドカと威圧的に飛鳥の方へとにじり寄る。
対面キッチンを挟んで真正面に立つと、彼女はアタフタしながら味噌汁の御椀を手に取り、シュラから視線を外した。


「楽しいっていうか、たまにしか見られないから……、ねぇ。」
「何がだ?」
「その……、ネクタイをグイッと指で緩める仕草がね。仕事モードから、一気にプライベートに切り替わる瞬間というか……。その一瞬の無防備さが、シュラはセクシーだなぁって……。」
「そう、か……?」


御椀に注いだ味噌汁を慎重に手渡すと、飛鳥は肯定の意味を籠めて全力で首を上下に振った。
両手で握り拳を作り、熱く力説を始める。


「スーツの時じゃないと、その一瞬の無防備さは見られないのよ。だから、とってもレアなの。」
「女の考えは良く分からん。」


今度は山盛りの白米の茶碗を受け取り、シュラは首を小さく傾げながら食卓に着く。
確かに、彼女の前でスーツを脱ぐ事は少ない。
和菓子職人の飛鳥は、定休が月曜日。
従って、泊りになるデートは基本的に日曜日が殆どだ。
平日は朝早くから作業を始める彼女の体力を気遣い、泊りになる事は滅多にない。
だからこそ、今日のようなスーツ姿の平日に、飛鳥が部屋に上がり込んでくるのは珍しく、こういう会話の遣り取りになったのだった。


「兎に角、無意識にスーツを脱いでる時のシュラは、すっごくセクシーなの。」
「それは、どうも。」
「だからね。他の女の子の前で、スーツを脱いだりしないでね。約束ね。」
「当然だ。」


そんな事、言われるまでもない。
シュラはフンと大きく鼻を鳴らすと、肉じゃがコロッケを箸で鷲掴む。
熱々だと分かっていながら豪快に噛り付き、それを一個、あっという間に平らげてしまった。





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