「な……、ななな、何だ? み、皆でそんなに俺を見て……。そんなに俺の顔が変か?」
「いや、顔が変とかじゃなくてさ。ね、シュラ。」
「そうだ。それに気になったのは、顔じゃなくて台詞だ。な、カミュ。」
「うむ。まさかリアの口から、そういう台詞が出るとは思わなかった。」
「せ、台詞? 台詞って、何だ? 俺が何か言ったか?」


アワアワするリアを余所に、カミュはポンと彼の左肩に手を置いた。
そして、反対側からは、シュラが右肩に手を乗せてくる。
両側からカミュとシュラに詰め寄られ、正面からはディーテにジーッと見られて、リアの額にタラリと汗が滲んだ。
い、一体、何だと言うのだ……?


「俺が羨ましいという事は、お前も彼女が欲しいと思ってるんだな。」
「か……、彼女?!」
「君は全く女性に興味がないのかと思っていたんだが、そうか。リアも、やっと目覚めたのだな。」
「め……、目覚めた?!」


そう、リアは大学を卒業するまでは、ずっとサッカー一筋。
これぞ体育会系と言わんばかりに、まるで女っ気のない生活を送って来た。
いや、例え体育会系だろうと、女の子と知り合う機会ぐらいはある。
寧ろ、サッカー部のレギュラー選手となれば、女の子の方からワラワラ寄ってくる程だろうに。


だが、問題は、あの兄さんだ。
ブラコン街道まっしぐらの兄さんが四六時中、リアの周辺に目を光らせていては、女の子が彼に近付く隙など微塵も生まれない。
あのニコニコ爽やか笑顔の裏から、バシバシと突き刺さってくる矢のような鋭い敵意の中、平然と耐え抜ける女の子など世の中にはいないのだ。


「ふ〜ん。キミも女の子に興味があったんだね。」
「それは、その、俺だって健全な男子だからな、まぁ……。」
「しどろもどろ過ぎるのだ、リア。」
「遂に営業先の看護師達では満足出来なくなったか。オバチャン達のマッチョプリンスだったのにな。」
「そ、そういうのは別としてだな……。俺も同年代の女の子と付き合ってみたいというか……。飛鳥みたいな可愛らしい華奢な感じの女の子が、自分の彼女だったら楽しいだろうなと……。」
「飛鳥は譲らんぞ。」


それまで、ニヤけた含み笑いで詰め寄っていたシュラの表情が一転。
一瞬にして冷酷なアサシンの如き鋭い視線に変わり、リアを睨み付けるシュラ。
飛鳥『みたいな』と言っているのに、その大事な言葉は、まるで耳に入ってきていない様子。


「いやいやいや! 飛鳥みたいな子が良いと言っただけで! 飛鳥本人と付き合いたいなどとは言ってないぞ! 譲ってくれとも言ってない!」
「言ったも同じだろうが。」
「まあまあ、落ち着きなよ。キミ達バカップルの間には誰も入り込めない(入り込まない)から安心しなよ。」


バカップルと言われてムッとするシュラ。
しかし、ディーテに窘められて、一旦は大人しくなった。
代わりに、グラスに残っていたカクテルを一気に飲み干し、フンと鼻を鳴らす。
他の男が飛鳥に興味を示すと、途端に御機嫌斜めになる、例えそれが仲間であっても。
本当に面倒な男だ。
というより、独占欲が強過ぎだ。


「で、年齢と彼女いない歴が同じなリアくんは、どんな女の子がお好みなんだい? それとも特定の気になる子がいるのかな?」
「いや、特に誰がというのではないが、シュラ達が羨ましくて、こう何となく……。」
「誰か紹介してやれ。ディーテなら、良い相手を知ってるだろ。」
「私よりキミの方が、周りにいっぱいいるだろう、シュラ。会社の女の子とかさ。」
「いやいやいや! 紹介とか、そういうのはちょっと……!」


慌てて手を振り拒むリア。
女の子を紹介してもらうだなんて恥ずかしい上に、何より心配なあの問題。
そう、ブラコン全開な兄の反応が非常に怖い。
どんな手を使って阻止しにくるか……。


「ちょっと良いか。一つ、気になる事があるのだが。」
「どうした、カミュ?」
「リア。君は彼女いない歴と年齢が同じだと言っていたが……。それはつまり『童貞』という事か?」
「っ??!!」


目を見開くリア、シンと静まり返る一同。
だが、次の瞬間。
シュラとディーテは火が点いたように爆笑し、リアは顔から火が噴き出さんばかりに真っ赤になって、大きな身体を小さく縮めた。





- 16/17 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -