「これか……。これはカボチャだ。」
「カボチャ? 何故にカボチャ?」


紙袋の中身は立派なカボチャだった。
そう、飛鳥が何処ぞから貰ったとかいうカボチャ。
こちらはお酒屋さんのお婆ちゃんと違い、カボチャそのもののお裾分けだ。


「煮物だと急いで食わねばならんし、日持ちがしないからこのままで、と言われた。」
「成る程、それで現物支給という訳か。」
「俺が料理をしない男なら、こうはならんかったのだろうがな。」


飛鳥が言うには、女の力ではカボチャを切るのが大変だから自分で切ってね、でもって、自分で料理してね、との事だとか。
シュラとしては、カボチャを使った菓子でも作って持たせてくれれば良かったのに、と思うばかり。
カボチャ入りの善哉とか汁粉とか、カボチャ餡の大福なんてのも良いな。
うん、カボチャ餡は美味い。


「キミは少し糖分の取り過ぎじゃないのかい? 早死にするよ。」
「大丈夫だ。会社の健康診断では毎年、全ての項目が正常値だ、何処も問題ない。」
「今は大丈夫でも、三十過ぎたら急に来るのだ。中年になった時に、それまでの不摂生が祟ってくる。」
「そうだぞ。病気になって悲しむのは飛鳥なんだぞ。」


その可愛い恋人が和菓子職人だというのが、一番の問題ではある。
飛鳥と付き合っている限り、シュラの糖分摂取過多は治らないだろうし、糖分制限の環境は出来ない。
結婚でもしてしまった日には、一生、糖分制限は無理だろう。
はい、シュラ、将来の糖尿病決定。


「普通に料理した方が良いと思うぞ。カボチャコロッケとか。」
「コロッケなら昨日、飛鳥が作った肉じゃがコロッケを食ったばかりだ。てか、朝飯にも食った。」
「ならば、カボチャのポタージュスープとかはどうだ? カボチャのニョッキなんかも美味いのだ。」
「シンプルに蒸しただけとかも美味いぞ。キャベツとか人参とかキノコとか豚肉とか、一緒に入れて蒸し鍋にするんだ。兄さんが好きで、我が家では頻繁に蒸し鍋にしてる。ポン酢でもドレッシングでも胡麻ダレでも合う。」
「う〜ん……。」


カミュとリアが交互にお勧め料理を列挙するが、どれもピンとこないのだろう。
シュラは元から怖い顔を難しそうに顰めて、うんうん唸り声を上げる。
そんな三人の遣り取りをカウンターの中から見ていたディーテは、苦笑いを浮かべながらグラスを磨いていた。


「ココは定番、カボチャの煮付けで良いんじゃない? あれがカボチャ料理では一番美味しいと思うよ、やっぱり。」
「そうだな。シュラ御所望のカボチャ善哉なら、また別の機会に飛鳥に作ってもらえば良いのだ。頼めば作ってくれるのだろう?」
「……手が空いていれば、な。」


意外に多忙な飛鳥は、シュラのリクエストをサラリと流して断る事も多くある。
というか、シュラが「あの和菓子が食いたい。」と催促し過ぎるのも悪い。
その頻繁な催促が面倒だと思っている飛鳥は、「はいはい、手が空いたら、その内ね。」と受け流すのが日課になってしまっていて、既に無意識の拒否になっているのだ。


「最早、夫婦の領域に達しているのだな、貴方達は。」
「ホント。いつ見ても夫婦漫才みたいな事をしてるよね。傍から見てると面白い二人だよ。」
「何処がだ? 至って普通のカップルだろうが。」
「そう思ってるところがね。フフッ。」
「羨ましいな。そういう相手がいるっていうのは……。」


最後の小さな一言は、聞こえるか聞こえないか程度の呟き声。
それでも、ボソリと吐かれたリアの言葉に、シュラ、カミュ、そして、ディーテまでも目聡く反応した。
そして、ガタリと三人同時に身を乗り出して、彼の顔を覗き込んでいた。





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