シュラもディーテも、普段はそんなに大笑いをするような男ではない。
シュラは見ての通りの無表情で無愛想だし、ディーテはいつもにこやかな笑みを浮かべてはいるが爆笑している姿は滅多に見られない。
その二人が腹を抱えて笑い転げているのだから、カミュは呆気に取られるしかなく、リアは真っ赤な顔のまま俯いているしかなかった。


「す、すまん……。ちょっとツボにハマった……、ククッ。」
「私もだよ。大真面目な顔で、その質問は反則だ、カミュ。」


目尻に溜まった涙を拭いつつ、何とか笑いを収めようとするディーテ。
一方のシュラは、笑いを止める気はないようで、立派な体躯を折り曲げ、声にならない音を喉の奥からヒーヒーと漏らしている。
普段がそんなに笑わない分、ツボにハマると抜け出せなくなる性質らしい。
これは暫く止まらないなと、カミュは呆れの視線をシュラへと向けた。


「カミュの疑問はご尤もだけど、幾ら何でもそれはないよ。ねぇ、リア。」
「それは……、まぁ……、その……。」
「彼女がいないとはいえ、体力自慢の大学生が毎日、サッカー・講義・メシ、サッカー・講義・メシの繰り返しじゃ、欲求不満で溜まりに溜まる一方だろ。デスに頼んで、そういう相手を探してもらった。そっち方面には非常に役立つ男だな、アイツは。」
「成る程、筆おろしの相手を紹介してもらったという訳か。」


ウンウンと納得したように大きく頷くカミュの横で、更に身体を小さくするリア。
幼馴染のカミュにも知られたくない恥ずかしい事だと、ずっと話さずに黙っていたというのに、こうもアッサリと暴露されるとは。
先輩とはいえ、激しい恨みの気持ちがリアの中でムクムクと膨らんでいく。
どうしてこんな横暴な男に、飛鳥みたいな可愛い恋人がいて、自分には一度も彼女が出来ないのか……。


「しかし、良くあの兄貴に見つからなかったものだな。」
「そこは、まぁ、細心の注意を払ったからな。ずっと一緒にいる彼女と違って、一回限りの相手だ。そう簡単にはバレないだろ。」
「どんなに弟が可愛いといってもね。職業柄、毎日、毎時間、監視出来る訳でもないし。」


リアの兄貴は警察に勤めている。
刑事の仕事は不規則。
どんなにリアの周囲に目を光らせていようとも、隙を突くのは容易だった。
恋人・彼女となれば、兄の審査を乗り越えるのは難しいが、一夜限りのお楽しみならば幾らでも誤魔化しようはあるというもの。


「試合の遠征先で、ってのもアリだろ。あの粘着兄貴といえど、追っては来れん。」
「アレコレ致した後に、兄貴と顔を合わせなくて済むというのも、地方の魅力かな。」
「流石は強豪校。遠征先、合宿中という手があったのだな。」
「まぁ……、それは……。」


何が凄いって、地方遠征のスケジュールに合わせて、遠征先でゴニョゴニョ出来るようセッティングしたデス(当時、大学四年生)の手腕なのだが。
しかも、リアだけではアレだからと勝手な理由を付けて、便乗して良い思いをした男もいたとか何とか……。


「最低なのだ。見た目からしてムッツリだとは思っていたが、そんなにエロい男だったとは。」
「ホントだよ。高校までは女の子に興味すらない様子だったのに。大学に入った途端、言い寄ってくる女の子は残らず味見してさ。しかも、一夜限りの爛れた関係まで貪っちゃって、酷い男だよ、シュラは。」
「よ、良くもそんなので……、飛鳥と……、付き合えたものだな……。」


途端に攻撃の矛先がリアからシュラへと変わる。
それに便乗して、反撃とばかりにリアまでも攻撃に加わってきた。
しかし、冷たい視線をカミュに、怒りの視線をリアに向けられても、シュラは平然とした顔でフンと鼻を鳴らしただけだった。


言い訳でも自慢でもないが、自分から口説いた事もなければ、誘った事もない。
全て相手からのアプローチなのだから、とやかく責められる謂れもない。
大体、ロクに知りもしない相手から「付き合って。」と言い寄られたところで、断る・断らないの判断材料が何一つないのだ。


「つまりは寝てみて判断する、と?」
「セックスすれば、ソイツの事が好きかどうか分かるかと思った、当時はな。」


やっぱり最低だな、貴方は。
カミュの呆れの声が響いて、シュラはもう一度、フンと鼻を鳴らす。
結局、どんな女と寝ても掴めなかったもの。
飛鳥と出逢うまでは、『好き』という気持ちがどういうものなのか、シュラには分からなかったのだ。


→第3話に続く


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