既に殆どの店がシャッターを下ろした夜の商店街。
だが、駅から通りが伸びている事もあり、店は閉まっていても、人通りは多い。
仕事帰りと思われるサラリーマンやOL達が行き交う中、明らかに怪しく目立った大男が二人、通りを進んでいた。
表情一つ変えず涼しい顔でズカズカと歩いていく男と、その男に横抱きにされてギャーギャーと喚き暴れる男。
二人共に吃驚する程の美男子なのだが、何よりも、男が男を無理矢理に姫抱っこしている異様な光景に、道行く人々は皆、ギョッと目を見開いて振り返るばかり。


「あれ〜? サガさんだ。それと……、ミロ?」
「ぎゃっ! 飛鳥っ?!」
「おや、飛鳥。こんな時間にどうした?」
「こんな時間って、まだ八時半にもなってないですよぉ。」


とんでもない痴態を飛鳥に見られてしまい更に焦り暴れるミロを余所に、彼を抱えたまま平然と話を続けるサガと、気にせず応対する飛鳥。
場所はサガの古書店の一軒手前、シャッターの下りた文具店の前だった。


「わーわー! 見るな、飛鳥!」
「で、何処へ行くんだ?」
「お酒屋さんにお遣いなの。お祖母ちゃんに頼まれちゃって。」


そう言って飛鳥は、手に持っていた両手鍋の蓋をパカリと開いた。
中には、ホカホカと湯気の上がる鶏肉とカボチャの煮物がギッシリと詰まっている。


「良い匂いだ。とても美味しそうだね。」
「カボチャ、いっぱい貰ったから、作り過ぎちゃって。それでお酒屋さんのお婆ちゃんにお裾分けするの。」


成る程、これが昔ながらのご近所付き合い名物、お裾分けというものか。
自分もこういうお付き合いをしてみたいが、如何せん、お裾分けされるのは問題ないが、お裾分け出来る程の料理の腕前がない。
美味しそうな煮物に思わず見入ってサガだが、暴れるミロの悲鳴に近い声に、ハッと現実に引き戻された。


「もう良いから! 早く帰ろう、早く! 店の目の前じゃん!」
「む……。」
「じゃあ、サガさん、ミロ。またね〜。」


手を振り振り、文具店の隣の酒屋へと向かって去っていく飛鳥。
一方のサガは、ここにきてやっと、腕の中のミロが額から大量の汗を噴き出している事に気付き、軽く首を傾げた。


「随分と汗だくだな。今夜はそれ程、暑くないだろう。」
「違う! そうじゃない! アンタの羞恥プレイのせいだから! しかも、それを飛鳥に目撃されたせいだから!」
「む……。」


そう言われても尚、頭の上に浮かぶ疑問符が消えないサガ。
頭は断トツに良い筈なのに、天然なのか、鈍いのか、世間の常識からズレているからか……。
だが、まぁ、良いかと、大して気にする事もなく、結局、最後までミロを腕の中から降ろさないまま、サガは家の中へと消えていった。


***


その頃、ディーテのバーでは、やっと落ち着きを取り戻したカミュとリアとシュラが、新たに出されたカクテルを飲み干してグラスを置いたところだった。
手持ち無沙汰になったリアがピスタチオに手を伸ばしてポリポリと食べ始めた一方、カミュは先程から何度もチラチラとシュラの足下に視線を向けている。
その視線に、シュラは全く気が付いていないように見えて、実はちゃんと気が付いていた。


「……何だ、カミュ?」
「ん? 何の事だ?」
「さっきから俺の足下をチラチラ見てるだろう。」
「気付いていたのか。いや、それが何なのか気になったのだ。」


カミュが視線で示した先には、床に置かれた白い紙袋があった。
どうやらシュラが持ち帰ったのは、黒猫和菓子の入った箱だけではなかったようだ。





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