「ほら。ミロ、帰るぞ。」
「い〜や〜だぁ〜!」
「良い大人が駄々を捏ねるな。」
「ヤなモンは、や〜だぁ〜!」


他のお客もポツポツと増え出した頃。
流石に酔っ払いのミロをそのままにはしておけないと、カミュは眠る彼を起こして帰り支度を始めた。
が、連日、このバーに居座り続けるミロには、早々に帰宅するという選択肢自体が頭にない。
カウンターのスツールにしがみ付いてでも、店に居座り続けようとするミロの姿に、カミュは深い溜息を吐いた。


「仕方がない。今夜は私が連れて帰ろう。」
「……サガ?」
「何だよぉ、サ……。っ?! え、ちょっと?! わわわっ!!」


カミュが説得したところで埒が明かないと判断したサガ。
普段は温厚な彼でも強硬手段に出る事もある。
椅子から引き離したところで歩こうとしない相手には、手段は一つしかないのだ。
脇と膝下に腕を入れて、サガは問答無用でミロを横向きに抱え上げた。
そう、世間で言うところの『姫抱っこ』である。


「ち、ちちち、ちょっと! ちょっと待ったあぁぁぁぁ!」
「ん? どうした、ミロ?」
「どうしたもこうしたもないって! この体勢っ……!」
「プリンセスホールドとは、やるな、サガ。」
「いや、そこは感心するところではないのでは?」


店中からクスクスと失笑が聞こえてくる。
真っ赤になってバタバタと暴れるミロ。
それを平然と姫抱っこし続けるサガ。
背も高くて筋肉モリモリ、下着モデルとして日々、身体を鍛え上げているミロの体重は、幾ら成人男性といえども楽々と抱え上げられる程、軽くはないのだが……。


「ミロがあれだけ手足をバタつかせているのにビクともしないとはな。サガ、恐るべき三十代だ。」
「確かにね。普段は古書に埋もれてウハウハしてばかりで、身体を鍛えている素振りなんて微塵もないのに。」
「二人共、何気にサガを貶しているぞ。それでは誉め言葉になっていないのだ。」


カミュは呆れて肩を竦めた。
窘められたところで反省の色が全く見えないシュラとディーテは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら事の成り行きを見守っている。
唯一、生真面目なリアだけが、ミロとサガの傍にアワアワとして立っていた。


「もう酔いは醒めた! 醒めたから下ろせって!」
「いや、駄目だ。昨日も朝まで飲んでいたと聞いたぞ。デスのところに泊まったそうじゃないか。今夜は私の家に泊めて上げるから、もう帰るんだ。」
「カミュ〜! 助けて〜!」
「自業自得なのだ。今夜は大人しく帰る事だな。」
「ディーテ、今夜の代金は明日、支払いに来る。ミロの分もな。頼んだよ。」


ニコリと微笑んだディーテが軽く右手を上げると、サガは滑るように店を出て、夜の商店街へと消えていった。
後には、ミロの「あ〜れ〜!」という奇声だけがこだましている。
ヤレヤレといった顔で皆が着席すると、店内には元の静かで穏やかな空気が戻った。
ホッと息を吐き、リアがグラスに残ったカクテルを一気に飲み干す。


「全く……、お騒がせなヤツだな。」
「本当だ。おい、ディーテ。もうヤツに強い酒は出すなよ。酔うと手が付けられん。」
「そうは言っても、シュラ。本人が望むんだから仕方ない。」
「適当に薄めておけ。どうせ味など大して分からん。」


ヒドい言い様だな。
飛鳥の件で絡まれた事を根に持っているのか。
ディーテは苦笑いを浮かべたままカクテルをグラスに注ぐと、同じように苦笑いを浮かべているリアに、スッと差し出した。





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